以下、朝日新聞デジタル版(2018年8月25日08時55分)から。
陸上自衛隊の輸送機オスプレイの佐賀空港(佐賀市)配備に向けた動きが急展開した。地元漁協の反発がある中で、佐賀県が受け入れに合意。防衛省は南西諸島の防衛力強化を急ぐが、住民の不安や懸念はくすぶったままだ。
「結論ありきではなく、様々な意見を聞き、プロセスを大切に向き合ってきた」
24日、陸自オスプレイの佐賀空港への配備受け入れを発表した山口祥義(よしのり)知事は、調整を重ねた上での判断だったことを強調した。小野寺五典防衛相との会談で「私として、これからしっかり考えていきたいと思うので、時間をいただきたい」と述べてから、わずか3時間後のことだった。
地元漁協にとっても「寝耳に水」の話。オスプレイ配備の漁への影響を調べていた九州防衛局が21日、調査日数が短かったことなどから「影響の有無は断定できない」と説明したのに反発し、追加調査を求めている中での表明だった。
山口知事は昨年5月に「国防には基本的に協力する立場」を表明してからは、防衛省への協力姿勢を強めた。一方、県内では今年2月、神埼市の民家に陸自ヘリが墜落し、「原因の究明が進むまでは」と国との交渉は停滞した。
しかし、自民党が多数を占める県議会は昨夏、配備受け入れを県に求める決議を可決。山口知事は12月に行われる知事選に向け自民党に推薦を求めており、支持者から「選挙前にオスプレイ受け入れを表明すべきだ」との声が上がったことも、判断の背景にあったとみられる。
防衛省は空港西側の土地に新駐屯地を造る方針。佐賀県にとっては今後、駐屯地建設予定地の地権者である県有明海漁協の組合員らの合意を得られるかが焦点になる。説得のカードが着陸料100億円で、防衛省によると県から要請したものという。
だが、見通しは立っていない。
組合員らには安全性への不安に加え、諫早湾干拓事業といった大型事業が原因で「不漁になった」といった国への不信感が根強い。地権者は550人にものぼる上、大半が配備に反対している。
県が開港時に漁協と結んだ公害防止協定の関連文書には「自衛隊との共用は考えていない」と明記されており、この協定の改定も必要になる。
県と防衛省は、地元漁協との協議会を設け、自衛隊の空港使用について話し合う意向だが、漁協が参加するかも見えない。
山口知事は会見で、漁業者の理解を得られるかどうかを問われ、「見通しは立たない。誠意をもってお話をさせていただきたい」と述べるにとどめた。その直後、県有明海漁協に出向いて説明した山口知事に、徳永重昭組合長は「極めて難しい面がある」と厳しい反応を示した。別の組合員は「漁業者がつまはじきにされている」と憤った。(杉浦奈実、秦忠弘)
南西諸島の防衛強化へ
「佐賀県知事からご理解いただいた。非常に大きな進展であり、防衛大臣として知事のご判断に感謝申し上げる」。小野寺五典防衛相は24日午後、山口知事が受け入れを表明したのを受け、即座にコメントを発表した。
2014年7月に武田良太防衛副大臣(当時)が佐賀県を訪ね、配備を正式に要請してから4年。地元漁協の反発が根強く、政府内にも協議の進展を困難視する見方があった。追い打ちをかけるように米軍機オスプレイや陸自ヘリの事故が相次ぎ、陸自高遊原(たかゆうばる)分屯地(熊本県益城町)など代替地の検討案まで浮上。防衛省幹部は「こんなに早く合意できるとは思っていなかった」と本音を漏らす。
防衛省は、南西諸島防衛の強化をはかるため、今年3月に離島防衛の専門部隊「水陸機動団」を発足。オスプレイはその輸送手段として使う。水陸機動団は陸自相浦(あいのうら)駐屯地(長崎県佐世保市)を拠点に、離島への上陸・奪還を主な任務とするもので、1回の空中給油で約1100キロ飛行できるオスプレイで相浦駐屯地と尖閣諸島を直接結び、有事の際に水陸機動団を短時間で展開させることができる。佐賀空港は相浦駐屯地に近く、広い干拓地で周辺に住宅地が少なく、当初から本命だった。
地元の不信感を払拭するため、防衛省は5月に陸自ヘリ事故の中間報告をまとめ、7月には小野寺氏が山口知事と会談し、オスプレイの安全性を自ら説いた。小野寺氏は24日、記者団に「漁業者の不信感の払拭と信頼関係の構築が必要との指摘を重く受け止め、取り得る方策を県と協議してきた」と説明。その上でオスプレイの飛行経路や飛行時間帯の制限など対策をとる考えを改めて強調した。
ただ、今秋に先行して導入する予定の5機については、佐賀空港は施設整備が間に合わず、陸自木更津駐屯地(千葉県木更津市)に暫定配備する方向。今回合意した着陸料についても追加の支払いが発生する可能性もある。小野寺氏はコメントでこうも強調した。「県民の理解と協力をいただけるよう引き続き誠心誠意対応していく」(藤原慎一)
米軍は10月に横田基地へ5機配備
防衛省は訓練予定地の一例として、大野原(佐賀県、長崎県)、日出生台(大分県)など九州の演習場を挙げるが、防衛省幹部は「佐賀空港はオスプレイの拠点に過ぎず、九州周辺や南西諸島の空域しか飛ばないわけではない。大規模災害が発生すれば、隊員や物資の輸送のために全国を飛ぶことになる」と話す。
オスプレイの本格的な量産は2005年に始まり、米軍は昨年11月時点で、世界で326機を保有。12年から米軍普天間飛行場(沖縄県)への配備が始まり、普天間所属のオスプレイは24機になった。不時着事故や緊急着陸などトラブルが相次いできたが、米軍は原因や再発防止に関する日本側への説明に消極的で、沖縄の不信感を高めてきた。
政府はオスプレイの安全性への不安を払拭(ふっしょく)しようと、13年に陸上自衛隊に計17機導入することを決定。機体は米国で製造されており、最初の5機が今秋にも日本に搬入される計画だ。当時の経緯を知る防衛省幹部は「陸自にはオスプレイを導入する予定も運用構想も全くなかった。沖縄対策のための政治主導の導入だった」と振り返る。
陸自のオスプレイが絡む大事故が起きれば、陸上幕僚監部に事故調査委員会が設置され、詳しい事故原因や再発防止策が公表される仕組みになっている。防衛省幹部は「米軍のオスプレイへの不信感の根っこにはトラブルの原因究明がうやむやなまま飛行が再開されている印象があるからだろう。地元の理解と協力を得ていくためにも、陸自オスプレイの安全性に関する情報はできるだけオープンにしていく」と話す。
ただ、10月には米空軍横田基地(東京都)にも空軍仕様の5機が正式配備され、24年ごろまでには国内のオスプレイは日米合わせて計51機となる計画だ。沖縄県民を中心にくすぶっていたオスプレイの安全性への懸念が全国各地に広まりそうだ。(古城博隆、編集委員・土居貴輝)
オスプレイをめぐる出来事
2012年11月ごろ 民主党政権内で自衛隊機導入に向けた予算要求を指示。12月に自民党政権が予算要求方針
14年7月 政府が佐賀県に陸自オスプレイの佐賀空港配備を正式要請
16年12月 米軍機が沖縄県名護市の海岸近くに不時着水を試みて大破
17年8月 米軍機が豪州沖で墜落、3人死亡