以下、朝日新聞デジタル版(2018年11月2日23時02分)から。
政府が待機児童対策の切り札として始めた企業主導型保育所をめぐって、待機児童が全国で3番目に多い東京都世田谷区で、保育士の一斉退職などのトラブルが相次いでいる。企業主導型保育所は認可外のため設置の審査が緩く、トラブルの可能性が当初から指摘されていた。
企業主導型保育所は2016年度に創設。保育士の配置基準や保育室の面積などは、認可より緩いが、一定の基準を満たせば、認可並みの助成金が出る。審査や指導を担う公益財団法人「児童育成協会」によると、今年3月末の時点で、全国の2597施設(定員5万9703人分)に助成が決まっているという。
同協会によると、同区上北沢の保育所で10月末、保育士ら7人が一斉に退職し、1日から休園。同じ会社が運営する同区赤堤の園でも11人が退職した。協会の調査に対し、職員らは「給与未払いがある」と話したという。区の職員が1日に現地で確認したところ、臨時の職員が数人を預かっている状態だった。
赤堤の園に次女(2)を預けていた会社員の男性(48)によると、一斉退職について園から伝えられたのは31日夜のメール。「なぜ急にこんな話に」と驚いた。翌朝、園で対応した社長は「こちらも困っている」などと話すばかりで、安心して預けられないと判断し、次女は1日から欠席しているという。男性は「これまでも保育士の入れ替わりが激しく、不信感を抱いていた」と話した。
運営会社の社長は朝日新聞の取材に、ほとんどの職員と連絡が取れない状態だと認め、「自分の責任。けがなどを防止するため、保護者にはできればお休みするようお願いした」と話した。給与については「支払っていた」と説明した。
世田谷区では、別の会社が運営する園も7月に休園。別の園でも保育士が一斉退職し、9〜10月に一時、預かる人数を制限するなど、少なくとも4件のトラブルが起きている。
区の担当者は「似たような事態が続き、驚いている。区には審査や指導の権限はないが、今回はあまりに急な事態なので、一時保育で受け入れる態勢を取っている」と話した。
協会の審査担当者によると、審査は主に書類のみで、運営会社の決算書などを確認しているというが、経営実績がない新しい会社でも、予算書を確認した上で助成をしている。基本的に書類が整った場合は全て助成しているという。(中井なつみ、仲村和代)