以下、朝日新聞デジタル版(2018年12月26日05時00分)から。
学校の危険な塀や暑すぎる教室、先生の「サービス残業」、文部科学省幹部の汚職や接待、医学部の不適切入試……。今年は様々な問題が明るみに出た年でもありました。教育をめぐるこの1年を振り返ります。
■振り回され続けた受験生 医学部不適切入試
発端は7月、文部科学省の私立大支援事業をめぐる汚職事件だった。現役局長が、事業の対象校に東京医科大が選ばれる見返りに、息子を同大に合格させてもらったとの容疑で逮捕、起訴された。「裏口入学はまだ存在するのか」と驚いたが、事態はより深刻だった。翌月、東京医大が入試で女子らを一律に差別していたことが発覚した。
文科省が81大学の医学部入試の調査に乗り出し、9大学を「不適切」、1大学を「不適切の可能性が高い」と指摘した。いずれも女子や浪人回数の多い受験生の得点を抑制したり、特定の受験生を優遇したりしていた。女子の合格基準を厳しくしていた順天堂大は、「女子はコミュニケーション能力が高く、男子を救うため」と説明。ある女性医師は「女性差別だと認めたくないから、慌てて組み立てた論理に思える」と憤る。
最大の被害者は、大学の論理に振り回され続けた受験生だ。東京医大は不正に不合格となった受験生のうち追加合格者数に「上限」を設定。結果、女子5人が再び不合格とされた。追加合格者は順大、日本大も合わせて計100人規模になるが、その分、来春以降の入学定員が減る。狭き門をさらに狭め、現在の受験生にも影響が出ることになった。
さらに、各大学の救済策は2017年度、18年度の2年間だけだ。それ以前から不適切な入試をしていた大学も、具体的な救済策をまだ示していない。昭和大に至っては、会見で表明した第三者委員会の設置の有無さえ明かしていない。被害はまだ続いている。これで幕引きにしてはいけない。
(土居新平)
■英語民間試験、割れる採否 大学共通テスト
大学入学共通テストや、英語の4技能を測る民間試験の活用が始まる2020年度の大学入試改革まで2年。今年は共通テストの試行調査結果や、20年度に活用できる民間試験が公表され、本番に向けた動きが本格化した。同時に、高校や大学から多くの不安や不満が噴き出した1年だった。
大学入試センターが3月、昨秋に実施した試行調査の結果を発表すると、衝撃が広がった。記述式問題の国語で完全正答率が0・7%の問題や、自己採点と正答が3割も一致しない問題があったほか、数学では3問とも無解答率が半分前後だったからだ。様々な対策がとられた11月の2回目調査の結果は、来年3月に公表予定。どこまで改善できているのか注目される。
20年度に活用される英語の民間試験は、英検やGTEC(ジーテック)、TOEFL(トフル)など8種が認められた。しかし、目的が異なる試験を一つの指標で公平に比べられるのか、試験会場数や受験料にばらつきがあるため受験生が住む地域や家庭の経済状況で格差は出ないか、といった懸念の声があがった。
そうしたなか、各大学は21年春の入試方針を発表。入試改革の目玉である英語民間試験について、東北大は使わない、東京大や京都大などは必須としない考えを示した。一方、早稲田大や上智大など活用を表明した大学も多い。
文部科学省は年末になって、高校や大学、民間試験の実施団体の代表を一堂に集め意見交換会を始めた。入試の主役である受験生が余計な不安を抱かずに本番を迎えられるよう、建設的な議論を進めてほしい。
(増谷文生)
小学校で3割、中学校で6割の教員が過労死ラインの月80時間を超す残業をしている――。文部科学省が公立小中学校の教員の働き方を調べた結果、そんな実態が浮かんだ。
中学教員をしていた両親が、こう話していたのを思い出した。
「昔は家庭や地域が担っていたことが学校に負わされ、どんどん仕事が増えていった。それでも子どものためなら、と先生たちはがんばっちゃうんだよね」
文部科学相の諮問機関である中央教育審議会の特別部会が12月にまとめた教員の働き方改革の答申素案は、この問題に向き合うものだった。ふくれあがった教員の業務を14項目に整理して仕分けたのだ。たとえば給食費の集金や督促は自治体、登下校の見守りは保護者や地域に委ね、部活は外部の指導員に手伝ってもらう。教員は授業などの本来業務に集中してもらう。
また、「自発的な居残り」とされた時間外の授業準備や部活動などの業務を「勤務時間」に換算できるようにしたうえで、「月45時間、年360時間」の上限指針をつくり、時間外勤務を抑制する狙いだ。
だが、課題はいくつも残った。その一つが教員独特の特別法の見直しの先送りだ。基本給の4%を一律上乗せ支給する代わりに、残業代は払わないという仕組み。残業が月8時間だった半世紀前から続くが、現在の教員の「サービス残業」を金額に直すと年間9千億円以上と推計され、「財源の確保が難しい」との判断から踏み込めなかった。
今回の答申が出ることで、教員の働き方改革が決着したわけではない。いかに実効性を持たせるかを含め、さまざまな場で議論を続けたい。
(矢島大輔)