「共通テスト記述式、検討当初から懸念 文科省の識者会議」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019/12/28 20:07)から。

 大学入学共通テストで導入が見送られた国語と数学の記述式問題について、文部科学省が、非公開の有識者会議で検討を始めた2016年当初から、短期間に厳正な採点ができるか懸念していたことが、公表された議事概要などから明らかになった。文科省は抜本的な解決策を打ち出せないまま導入を進め、土壇場での見送りにつながった。

 記述式の最大の課題は、約50万人分にもなる答案を短期間に誰がどうやって採点するかだった。16年7月に開かれた2回目の「検討・準備グループ」で、文科省がまず提案したのは「12月実施案」だった。

 大学入試センター試験と同じ1月中旬に実施した場合、約2週間後に控える各大学の個別試験への出願に間に合わせるため、記述式は国語・数学とも1問ずつ、国語の解答は40字程度になると分析。一方、実施を12月に前倒しすれば、国語では40~80字程度を書かせる問題を最大4問出題できると利点を説明した。

 ただ、12月実施の場合、「授業の過密化など高校の教育活動に影響が及ぶ」とも指摘した。この案に高校側の委員が猛反発した。全国高校長協会の宮本久也会長(当時)は、「センター試験の日程は、大学入試と高校教育への影響とのギリギリの日程で、あそこ(1月中旬)に置いた。1カ月も早めることは、到底考えられない」。埼玉県教育委員会の関根郁夫教育長(同)も同調した。

 実施時期を早める代わりに、各大学に採点を委ね、負担を分散する案も示した。だが、「(同じ解答なのに)大学ごとに点数が違えば批判される」「教員への負担を増やしたくない」などと大学側の支持を得られなかった。センターの常勤職員は100人弱しかおらず、採点の民間業者への委託が事実上決まった。

 課題の解決を棚上げしたまま、文科省は17年5月、新テスト実施方針案を発表。1月中旬に実施▽国語と数学に3問ずつ出題▽国語に80~120字程度で答える問題を入れる▽記述式の採点は民間業者に委託する、といった方針を示した。

 記述式を増やしたのは、学習指導要領で重視する「思考力・判断力・表現力」を測る「目玉」として導入するには、「1問40字程度」の筆記では不十分と考えたためだ。ただ、採点の作業量が増えることになり、問題が広がった。

 採点を請け負う民間業者は、最大1万人規模の採点者を集める必要に迫られた。採点経験の少ないアルバイトを増やすことになり、採点のぶれや公平性への不安が増した。受験生が自己採点する難しさも強まった。試行調査では、国語の各問で自己採点がセンターの採点と一致しない割合が3割前後に達した。不一致率を下げようと、2回目の試行調査では解答に多くの条件を付けたが改善しなかった。自由に書かせて「思考力・判断力・表現力」を問う本来の目的に反するという批判も出た。

 それでも文科省やセンターの担当者は「採点ミスも自己採点の不一致もゼロにはならない」として導入を進めた。検討・準備グループの元委員は「いま思えば、民間業者にどのような態勢で採点させるのか、もっと議論すべきだった。文科省から具体的な提案はなく、途中から英語民間試験の活用などテーマも増えたため、議論が深まらなかった」と振り返った。萩生田光一文科相は27日の会見で議事概要の内容について、「解決策まで深掘りをせずに議論を前に進めたという印象は拭えない」と認めた。(増谷文生)

無理があるのはわかっていたはず
 教育情報会社「大学通信」安田賢治常務の話 公開された資料から、高校や大学の協力を得るために妥協を重ねた文科省の姿が見える。途中経過がわかったことで、最終的に決まった仕組みが実現の難しい、よりずさんなものに見える。課題を認識できていたのだから、文科省も無理があるのはわかっていたはずだ。もっと早い段階で判断できなかったことが残念でならない。

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 〈検討・準備グループ〉 大学入試センター試験に代わる新テストでの英語民間試験の活用や、国語・数学の記述式問題の具体化を議論した文部科学省有識者会議。大学の学長や教育研究者、高校長、教育長らが委員を務めた。2016年5月から17年3月まで9回分の議事録が非公開とされていたが、批判を受け文科省が24日に概要を公開した。