「「国に振り回されないで」 記述式見直しに教育現場は」

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以下、朝日新聞デジタル版(2019/12/6 8:00)から。

記述式問題で指摘されている主な問題点
 英語民間試験の活用見送りに続き、大学入試改革のもう一つの目玉である記述式問題についても、政府・与党は導入を延期する方向で調整に入った。文部科学省は意義を説明してきたが、採点などをめぐり数々の問題点が浮上。相次ぐ方針転換に、高校や大学は対応を迫られそうだ。


 「導入はもう中止する。決断すべき時に来ていると思います」。5日午後の参院文教科学委員会。共産党吉良佳子氏に迫られた萩生田光一文部科学相は「改善の努力を続けております」と述べるにとどまった。

 先月1日に萩生田氏が英語民間試験の活用見送りを表明して以降、衆参両院の委員会では野党側が記述式問題の課題を次々と指摘。文科省大学入試センターの担当者を国会に呼び、導入の中止を求めていた。

 記述式問題は、「思考力・判断力・表現力」を測るとして、共通テストへの導入が決まった。初年度の21年1月のテストには、国語と数学に3問ずつ導入。国語のマークシート部分の配点は200点だが、記述式部分は点数を付けず、3問を総合して5段階で評価する。段階ごとの得点換算は各大学に任されている。

 2017年、18年に実施された2回の試行調査では、記述式問題について数々の問題点が浮き彫りになった。国語では、生徒の自己採点と大学入試センターの採点とのズレが3割前後と大きかった点が問題視された。

 代々木ゼミナールの佐藤雄太郎・教育事業推進本部長は、段階ごとに10点刻みの配点にする大学もあるため、自己採点を1段階間違った時の影響の大きさを指摘する。「1点刻みのマークシートと組み合わせることには無理がある。もっと精緻(せいち)な仕組みを考える必要があった」と語る。

採点のばらつき、高2生徒「50万人規模で無理ある」
 専門家からは、現行のセンター試験並みの50万人前後が受験した際に、1万人近い採点者が同じレベルで採点できるか心配する声が上がっていた。首都圏の高校生のグループは11月、インターネット上で呼びかけて実施した国語の採点の再現実験の結果を発表した。正答要件を満たしているのかあいまいな解答例を、中高生や教員、予備校講師ら約1500人に採点してもらうと、かなりのばらつきがみられたという。代表の高校2年の男子生徒は「採点のプロと言える教員らのグループでも判断が割れた。50万人規模で行うのは無理がある。出題中止を求めたい」と話す。

 試行調査で出された記述式問題では、思考力や表現力を問えないとの指摘もある。神奈川県立横浜修悠館高校の小嶋毅・総括教諭(国語)は、「『確かに』という書き出しで」「具体的な根拠を二点挙げ」などと複数の条件を課した点について、「意味がないどころか有害」と言う。「思考力を育み、表現力を磨くという本来の記述式の趣旨から外れている。条件が設けられた中で書くことに慣れると自由に書くことが阻害され、書く力を削(そ)ぐことにすらなりかねない」と指摘する。(宮崎亮、増谷文生、山下知子)

受験生のため「早めに決定を」
 英語民間試験の活用見送りを求めた全国高校長協会は、記述式については意見集約をしていないとして、態度を表明していない。導入延期の検討について、萩原聡会長は「共通テストの問題の中身や試験時間がどうなるか、記述式の成績を活用する方針だった大学がどのように対応するかが、気になる。決定後の対応を見守りたい」と述べた。

 大学側はどう見るのか。記述式の成績の活用を予定する国立大の副学長は「(導入延期は)英語民間試験見送りの時ほど混乱はないだろう」と冷静だ。個別試験で記述問題を出題しており、「共通テストで記述式を課さなくても力は測れる。自己採点の混乱で受験生が振り回されるよりは、中止の方がいい」。別の国立大の入試担当者も「結局今回の入試改革は、出題の方向性や主体性を問う部分を除けば元に戻るだけ。大きな影響はない」と話す。ただ、「受験生に配点などの見直しを早く知らせたいので、早めに決定してほしい」と求める。

 一方、駿台教育研究所の石原賢一・進学情報事業部長は受験生に対して、こう警鐘を鳴らす。「個別試験でも私立の入試でも、読解力、記述力がより一層問われる流れは変わらない。国に振り回されず、努力を続けてほしい」。中教審委員、高大接続システム改革会議委員として改革の議論を進めてきた荒瀬克己・大谷大教授(国語教育)は「文章の内容をきちんと受け取るという読解力を測るには、自分の言葉で表現してもらうのが有効だとして、検討を重ねてきた。入試だけでなく教育を変えようとした出発点に立ち返って検討してほしい」と話す。(宮坂麻子、氏岡真弓)