以下、朝日新聞デジタル版(2020年5月23日 5時00分)から。
陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の陸上自衛隊むつみ演習場(山口県萩市)への配備計画で、配備後の演習場での生活用水などの給水について、防衛省が萩市に求めたところ、市は供給水量に余裕がないと断っていた。防衛省は設備を修繕すれば給水は可能と市に確認したと説明するが、市は現時点では給水できないとの立場を示している。
防衛省の計画では、イージス・アショアの運用・管理や、警備部隊としてむつみ演習場に約250人の自衛官を配置する。市は現時点で受け入れの可否は示していない。
むつみ演習場が「適地」か調べた防衛省の調査報告書は、両者の協議概要を記載。朝日新聞が市に開示請求した資料では、市が防衛省の求めを断っていた。
開示資料によると、防衛省と市は2018年11~12月、演習場への給水について協議した。市は、地下水で賄うむつみ地区の1日計画給水量は約633トン(県認可の01年3月時点)と説明。そのうえで、1日平均給水量は600トン、余裕は約33トンしかないとして「現在の能力では分岐(供給)できない」と回答した。
防衛省は配備後の施設に必要な給水量は市に示したが取材に明らかにしていない。市も明かしていない。
水道法は「給水区域内の需要者から給水契約の申し込みを受けた時は、正当の理由がなければ、これを拒めない」と規定。市は、余裕水量の不足は「正当な理由にあたる」とした。
一方、防衛省は報告書で、山口県がまとめた県内の水道事業に関する資料を踏まえ、市が使っている水量は約633トンのうち1日平均350トン程度と指摘。「認可当時(01年3月時点の)取水量を確保できる状況であれば候補地の給水量も賄える」と結論付けた。
この報告書などをもとに、防衛省は19年5月と同年12月、演習場を「適地」とする調査結果を県や萩市などに伝達した。
市上下水道局の小原浩二局長は取材に「350トンという数字は漏水を十分加味していないデータ」と指摘。給水途中に水道管から漏れる分を含めた推計は600トンとして「余裕は十分ではない」と説明する。
防衛省は取材に「漏水修繕などを行えば、供給は不可能ではないことを萩市から口頭で確認している」とする。小原氏は「担当者が口頭で(防衛省の言うような)回答をしたかもしれないし、水道管の修繕などを行えば絶対できないとは言わないが、現時点の回答は『分岐できない』」としている。
イージス・アショアの配備計画をめぐっては、昨年5月に防衛省が公表した報告書で、レーダー照射方向にあるむつみ演習場近くの高台の標高をデジタル地球儀「グーグルアース」から引用。国土地理院のデータとは異なることが判明し、防衛省が再調査した。
もう一つの配備候補地、秋田市の陸自新屋演習場で昨年6月、防衛省の報告書が他の候補地周辺の山の高さを実際より高く記す誤りが発覚。政府は新屋演習場への配備を断念する方針を固めている。(林国広)