以下、朝日新聞デジタル版(2020/12/18 17:30)から。
コラム「社会季評」 臨床心理士・東畑開人さん
私たちの社会をめぐる二つのトピックを取り上げたい。全く別の話だけど、関係はあるはず。一つは忘年会がないこと。私もまた、コロナ第3波を受けて、一通りキャンセルしたので、スケジュール帳は真っ白で、透明だ。これで年末ゆったりできるとほくそ笑んでしまう。だけど、その一方で思う。何を失ったのだろう。
とうはた・かいと 1983年生まれ。臨床心理士。十文字学園女子大学准教授。著書「居るのはつらいよ」で大佛次郎論壇賞受賞。
同僚、友人、関係者たちと、3密空間で共に食べ、共に飲む。そこでシェアされるのは感染リスクだけではなく、それぞれの1年だ。おしゃべりが散乱し、飛沫(ひまつ)の霧がかかった不透明な空間で、私たちは普段見せていない自分をふと漏らしてしまう。すると、SNSをフォローしているだけではわからなかった、各自の個人的な1年が見えてくる。「色々あったんだ」と驚き、「大変だったな」とか「よかったじゃん」と思って、関係が少しだけ密になる。
「個」としての顔が垣間見えるのだ。忘年会には個を可視化する機能があった。だからこそ、忘年会は負担でもあったのだが、同時にコミュニティーに個がすまう余地を作り出すこともできた。この年末に失われたのはそういう時間だと思う。
未来が見えない 苦しむ若手・中堅
もう一つのトピックは若手官僚の退職増加。先月、河野太郎大臣が「危機に直面する霞ケ関」と題するブログを投稿した。そこには若い官僚の退職者数が6年間で4倍になったこと、だから働き方改革が急務であることが記されている。確かに労働環境の改善は不可欠だ。だけど、それだけではない。挙げられていた退職したい理由には、「自己成長」や「キャリアアップ」の難しさも含まれていた。そう、若い官僚たちに未来が見えない。そして、これは官僚だけの問題ではない。企業人にせよ大学人にせよ、この社会で働く若手・中堅の多くが、未来が見えずに苦しんでいる。
(後略)