「森友・加計、切り込み不足の立法府 国会担当記者座談会」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年7月23日22時23分)から。

 182日間にわたって開かれた通常国会が22日に閉会した。森友・加計(かけ)学園問題の事実解明に向けた与野党の議論は十分だったのか。国会運営は今後どうあるべきか。担当記者が話し合った。

〈記者座談会の出席者〉笹川翔平(自民党国会対策委員長担当)、別宮潤一(立憲民主党国対委員長担当)、久永隆一(参院自民党担当)、河合達郎(参院野党担当)、斉藤太郎(国会担当)。司会は国会担当キャップ・東岡徹

 ――森友・加計問題が焦点だった。

 笹川 朝日新聞が決裁文書の改ざんを最初に報じた3月2日から数日間は「こんなことが本当にあるだろうか?」という雰囲気が与党内を占めていた。それぐらい「あり得ない」話だった。

 ――与党の対応はどうだったか。

 久永 与党も野党もなく、すべての国会議員がだまされていた。それなのに、与党議員は切り込もうとしない。与党は政府を支えることも大事なのは分かる。しかし、支えると、かばうは違う。

 笹川 行政府が国会にウソをつき続けていたという深刻な事態だ。与党は首相の側近議員らが公文書管理についてのプロジェクトチームをつくり、再発防止策をまとめて首相官邸に提言したが、「公文書管理」というテーマに焦点をずらし、財務省がなぜそんなことをしたのかという原因を探る議論には立ち入らないようにしていた。

 ――野党はどうだろう。

 斉藤 森友・加計問題の追及で気を吐いた野党は共産党だった。独自に文書を入手して政府を攻め立てた。それ以外の野党はメディアの報道に頼りがちだった。官僚の中立性を保ち「忖度(そんたく)政治」をまんえんさせないためにも、役所からの「通報」の窓口になれるような野党議員たちが必要だった。

 別宮 質問力が必要だ。5月28日の参院予算委員会の集中審議では、直前に森友学園をめぐる財務省の約1千ページの新文書が出ていたのに抽象的な質問を繰り返した国民民主党の幹部もいた。今後も森友・加計学園の問題がまだ終わっていないと示すべきだ。

 河合 相次ぐ疑惑や不祥事に対し、立法府で多数を握る与党が内閣を擁護する姿勢が目立った。与党の姿勢に対し、野党がブレーキをかけられなかったのは、与党にとって今の野党では「政権を取って代わられるかもしれない」という恐怖感がないからだろう。

延長国会、国民不在の自民・参院6増案

 ――国会運営はどうだったか。

 久永 この国会で初めて国会運営を本格的に取材したが形式主義を感じる場面があった。与野党の幹部同士の事前の話し合いで結論が出ているのに、参院議院運営委員会の理事会では与野党の理事が1時間近く非公開で会議をする。与党議員は会議の流れと何を言うかセリフが入った台本まで持っていることがあった。「与野党は攻防しているんじゃない。筋書き通り歌舞伎をしているんだ」と言うある議員の解説がしっくりきた。

 斉藤 国会対応をめぐる立憲と国民の対立も悩ましい。参院厚生労働委員会働き方改革関連法案の付帯決議を読み上げる国民の議員に立憲幹部が「何を勝手に読んでいるんだ!」と大声を上げていた。2人は1カ月余り前まで民進党執行部の元同僚。共に対抗すべき相手は自民党なのにひどい場面だった。

 河合 立憲は政権への対決姿勢を強調し、国民は付帯決議などで「実を取る」姿勢を重視した。各野党が独自路線を追求し、有権者が期待する「政権の受け皿」の姿が見えなくなってしまった。

 笹川 昨年の特別国会に続き、自民党は国会審議での与党の質問時間を増やすよう要求した。これまで野党に手厚く配分されていた質問時間を一定程度奪い返したが、実際に自民がこだわったのはテレビ中継のある予算委員会の集中審議。それ以外では従来の与党2対野党8よりもさらに与党側が少ない配分になったこともあった。

 与党側は「野党はすぐにテレビ中継がある集中審議を要求する」と批判するが、結局、テレビ中継を意識しているのは与党も同じということだ。

 ――自民の小泉進次郎筆頭副幹事長ら若手議員のグループや立憲が国会改革を提言している。

 笹川 小泉氏らの提言は端的に言えば「日程闘争をやめよう」ということだと思うが、限られた会期でせめぎあうからこそ、緊張感が生まれる面もある。

 ――野党は森友問題などをめぐり5月の連休を挟んで18日間にわたって審議拒否し、与党は「18連休」と批判した。野党には世論にアピールする狙いもあったと思うが、どうだったか。

 別宮 批判もあったが、今の野党の抵抗手段が日程闘争ぐらいしかないのも事実だ。ただ、審議に復帰する理由がややあいまいだった。柳瀬唯夫元首相秘書官について偽証罪に問われる証人喚問を求めていたが、偽証罪に問われない参考人招致で応じた。

 河合 公文書の改ざんなど国会の「常識」を超えた問題が続いただけに審議拒否というカードを切ることは理解ができる。ただ、中途半端に終わったため、野党の本気度は世論に伝わりきらなかった。

 ――今後、国会で改めるべき点は?

 久永 今国会が32日間延長された理由の一つが、参院議員の定数を6増やすため、自民などが提案した公職選挙法改正案だった。

 この法案審議に先立って、各党が選挙制度のあるべき姿を協議する専門委員会が17回開かれていた。すべて非公開。終わってから記者団に概要説明があるだけだった。さらに、成立した自民案はこの議論で一度も出ていない。まさに国民不在としか言えない。

 別宮 立憲などが議員立法として提出した「原発ゼロ法案」は結局、今国会では、最後まで審議されることはなかった。審議入りできれば、日本が脱原発とどう向き合うべきか、より議論が深まったはずだ。野党提出の法案を審議する日を設ける仕組みも検討すべきだろう。