以下、朝日新聞デジタル版(2020/12/28 5:00)から。
コロナ禍が人びとの命と暮らしを脅かし、財政が逼迫(ひっぱく)するなか、前政権下で拡大してきた防衛費が、そのまま膨らみ続けている。再考すべきだ。
菅政権が閣議決定した来年度当初予算案で、防衛費は5兆3422億円となり、7年連続で過去最大を更新した。今年度の第3次補正予算案にも3867億円が計上された。「従来とは抜本的に異なる速度で」変革を推し進めた安倍前首相の路線がここでも踏襲されている。
中国の軍拡や強引な海洋進出など、地域の安全保障環境が悪化していることは確かだ。中長期的な視点にたって、着実に防衛力を整備する必要はあろう。とはいえ、無尽蔵に予算をつぎ込む余裕はない。費用対効果、優先順位を、一段と厳密に、徹底的に見極めねばならない。
その意味で懸念を抱かせるのが、防衛省が進めようとしている二つの大きな事業だ。いずれも将来、限られた防衛費を圧迫し、予算配分にゆがみをもたらしかねない。
まずは、破綻(はたん)した陸上イージス計画の代替策として決めた海上自衛隊のイージス・システム搭載艦2隻の新造だ。
来年度は調査研究費17億円にとどまるが、陸上用に米国から購入を決めたレーダーなどの装備を海上に転用するという前例のない取り組みである。艦の具体像すら定まらず、最終的にどれだけのコストがかかるのかは不明のままだ。2基で5千億円超と見られた陸上イージスをさらに上回る恐れもある。
もうひとつは、航空自衛隊のF2戦闘機の後継となる次期戦闘機の開発だ。
防衛省は当初、国産開発を検討したものの、巨額のコストや技術的な問題もあり、米国との共同開発の道を選んだ。三菱重工を中核に、ロッキード・マーチン社から技術支援を受け、英国とも協力しながら35年の配備をめざす。
来年度の開発費は576億円だが、将来的には兆の単位を見込む大型プロジェクトである。政府は防衛産業の基盤維持のため「日本主導」の開発を掲げるが、果たして思惑通りに進むのか、課題は多い。
コロナ禍はもとより、急速な人口減少や少子高齢化、格段に厳しさを増した財政事情など、日本の現実から目を背けてはならない。脅威に力で対抗する発想だけでは、いずれ行き詰まることが避けられない。
肝要なのは、脅威をいかに低減させるかを考えることだ。軍事に過度に傾斜せず、緊張緩和のための外交努力とあわせて地域の安定をめざす。身の丈にあった、持続可能な安全保障を構想しなければならない。