「(社説)五輪まで1週間 バブルの穴 尽きぬ懸念」

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以下、朝日新聞デジタル版(2021/7/16 5:00)から。

 感染症パンデミック下で強行される東京五輪の開会式まで1週間となった。

 選手・関係者が続々と来日するなか、想定の甘さや準備不足に起因する様々なほころびや混乱が相次ぐ。なにより問題なのは、そうした状態を事実上放置したままにしている主催者および政府の姿勢である。責任感の欠如は、大会への不信と反感を増幅させるばかりだ。

 その発言を聞いて、驚き、あきれたのは何度目だろう。

 おととい、官邸で菅首相と面談した国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は「コロナのリスクを五輪が持ち込むことは絶対にない」と語った。記者団が、定められた行動規範を関係者が守っていない例が多々あると指摘しても、「日本の国民のリスクとなるような違反があったという報告は届いていない」と応じなかった。

 それが本当ならば組織内で情報の流れが目詰まりを起こしていると言うほかない。それともある程度のルール破りが起きるのは当然で、目くじらを立てる話ではないと考えているのか。

 いずれにしても、五輪運営の最高責任者の認識と資質が改めて問われる事態だ。

 実際はまるで違う。

 選手・関係者をバブル(泡)で包むようにして一般の人と分ける「バブル方式」で、安心安全を確保するとの触れ込みだった。だが空港でも宿泊先でも、動線が峻別(しゅんべつ)されていないとの話が絶えない。入国後の一定期間は行動を厳しく制限し、「監視者」もつけると言っていたが、ホテルの入り口に警備員が立つだけで、そもそも誰が入国何日目なのか知るすべもない。

 完全なバブルをつくるなど不可能だと言われていたのに、できる・やると国民に約束した以上は、主催者側はこれを確実に履行しなければならない。まさか、その場しのぎの弁明だったというわけではあるまい。

 他にも疑問は尽きない。

 濃厚接触者とされた選手はいつまで隔離され、どんな条件で試合への出場が許されるのか。誰が判断し、いかなる責任を負うのか、判然としない。

 会場の大半が無観客になったことに伴う、医療・警備・輸送体制やボランティアの配置の見直し、酷暑対策のその後なども、開催地の国民にとって重要で関心の高い情報だ。全体像を早急に示す必要がある。

 留意すべきは「日本の国民のリスク」だけではない。対応の緩さが明らかになるに従い、関係者らがウイルスを持ち帰り、世界中に拡散させることを懸念する専門家の声が、国の内外で強まる。日本発の大流行だけは「絶対に」防がねばならない。