以下、文春オンライン(2021/06/09 16:10)より。
東京五輪開催に伴う感染リスク評価に関する提言を出す考えを表明した新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長(71)。パソナグループの竹中平蔵会長(70)が「明らかに越権」と批判するなど尾身氏への反発も広がる中、厚労省感染症対策アドバイザリーボードの一員で、京都大学大学院医学研究科の西浦博教授(44)が「週刊文春」の取材に応じ、専門家が五輪に関する提言を行う理由について語った。
尾身氏が「今の状況で(五輪を)やるというのは普通はない」と述べたのは、6月2日の衆院厚労委員会。以降、竹中氏をはじめ菅義偉首相の周辺から「五輪は尾身会長の所管ではない」といった声が相次いでいる。
確かに、尾身氏率いる分科会は、コロナ対策について科学的な知見から政府に助言を行う立場。五輪開催の可否などについて、政府から諮問を受けているわけではない。
にもかかわらず、なぜ五輪に関する提言を行うのか。
五輪に危機感を抱く尾身会長 ©共同通信社
西浦氏はこう語る。「五輪に伴う感染リスクは、国内の感染状況と無関係ではありません。五輪開催のリスクを評価することは、専門家としての責務です」
分科会やアドバイザリーボードの専門家たちは有志のメンバーで、これまでも五輪をテーマにした議論を非公式な形で重ねていたという。
「開催した場合に想定されるリスクの検討を行ってきました。海外から選手・関係者が来日することのリスク、人流増大に伴うリスク、医療逼迫のリスク、変異株の流入・流出のリスク。4月28日には、組織委の中にもコロナ対策を議論する『専門家ラウンドテーブル』が立ち上がった。この日以降、議論はより活発化し、徐々に意見をまとめていきました」(同前)
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7月半ばには感染対策がより困難に7月半ばには感染対策がより困難に
西浦氏が五輪開催にあたって危機感を抱くのが、強い感染力を示すインド変異株の存在だ。現在、日本で流行しているのは英国変異株だが、各地で続々とインド変異株が確認されている。「英国株は従来株より1.5倍の感染力があるとされていますが、インド株はそれより更に1.5倍強いと言われている。重症化リスクや死亡リスクも高い。7月半ばには、おそらく現在の英国株がインド株に置き換わる。感染対策がより困難になるのです」(同前)
7月半ばと言えば、五輪開会式の直前。このままだと、従来株の約2倍の感染力と言われるインド変異株が広がった状況で、五輪を迎えることになる。