「IRの行方は 横浜市長選、混戦模様 9氏が立候補表明」

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以下、朝日新聞デジタル版(2021/8/3 11:00)から。

 8日に告示される横浜市長選が混戦模様となっている。カジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の是非を軸に与野党が対決すると見られていたが、現職閣僚が「誘致とりやめ」を掲げて立候補を表明し、構図が一変。誘致反対派が次々に名乗りをあげ、立候補予定者は9人にのぼる。果たして、IRの行方は――。

 倉庫が並ぶ横浜港の山下ふ頭。ここがIR予定地だ。今年1月に事業予定者の公募を開始。今夏にも決定し、共同でつくるIRの整備計画を来年4月末までに国に申請する。市がまとめた実施方針によると、大規模な国際会議場や最高級ホテルを含めた3千室以上の宿泊施設、劇場やショッピングモールといった施設の一体的な開発・運営を事業者に求めている。

 「キツネにつままれたようだ」。自民党市議らがこう言って頭を抱えたのは6月後半。当時、自民党神奈川県連会長で衆院議員の小此木八郎氏(56)が、国家公安委員長を辞任して名乗りをあげ、「市長になったら最初にする仕事は、横浜でIR誘致をとりやめることだ」と語った。

 地元選出の衆院議員である菅義偉首相が、観光政策の目玉として旗を振ってきたIR。横浜市が2019年8月に誘致を決めたのは、菅官房長官(当時)の意向が働いたと地元ではみられていた。

 市長選でも当初は自民、公明両党が支援しIR推進を掲げる候補と、野党勢力が支援しIRに反対する候補が対決する構図になるとみられていた。その中で菅首相に近いとされる小此木氏の、まさかの「IRとりやめ」表明だった。

 IRに対しては市民の反対が強い。現職の林文子氏(75)は前回17年の市長選で、争点化しつつあったIRについて「白紙」と態度をあいまいにして3選し、その後に誘致推進に転じた。反発する市民団体が誘致の是非を問う住民投票条例の制定を求める署名活動を展開し、19万筆余りが集まったこともある。

 小此木氏によると、昨年暮れごろから「IR誘致に市民の信頼が得られていない」との思いが強まり、5月24日に「誘致とりやめ」で立候補する意思を菅首相に伝えた。菅首相は沈黙の後、「わかった」と一言だけ答えたという。

 立憲民主党にとって、小此木氏の立候補表明は、意表を突かれた形になった。IR反対を訴えるとともに、「新型コロナの専門家」として元横浜市立大学教授の山中竹春氏(48)の擁立を正式に発表する目前だったからだ。

 こうした中、7月に入って、元検事で弁護士の郷原信郎氏(66)、元長野県知事で作家の田中康夫氏(65)、元神奈川県知事で参院議員の松沢成文氏(63)と、知名度の高い人物が、IR反対で次々と名乗りをあげる。

 これに対し、IR賛成は元衆院議員の福田峰之氏(57)だけという構図の中、林氏も告示まで1カ月を切った7月15日、誘致に期待する経済界の一部の要望を受ける形で、4選を目指して立候補を表明した。

 前回支援した自民党市連は林氏の多選などを理由に引退を促したが、一方で小此木氏の推薦も見送り、自主投票を決めた。ただ、小此木氏を支援する有志議員の会が発足。IRを推進してきた自民党市議36人のうち30人が参加するという。さらに菅首相も小此木氏側がタウン誌に出した意見広告に登場し、IRには触れぬまま「小此木さんの政治活動を全面的かつ全力で応援する」と表明した。

 IR誘致の行方は。そして近づく衆院選への影響は。注目の市長選は、22日に投開票される。(武井宏之、松沢奈々子)

横浜市長選の立候補表明者
太田 正孝 75 横浜市

小此木八郎 56 元国家公安委員長

郷原 信郎 66 弁護士

田中 康夫 65 元長野県知事

坪倉 良和 70 水産仲卸会社社長

林  文子 75 横浜市長

福田 峰之 57 元衆院議員

松沢 成文 63 元神奈川県知事

山中 竹春 48 元横浜市立大教授

(50音順、敬称略、数字は年齢)

(武井宏之、松沢奈々子)