10月1日、アメリカ合州国で84年間破られなかったジョージ＝シスラー（セントルイスブラウンズ）のシーズン257安打の大リーグ記録(1920年)に、シアトルマリナーズのイチロー選手が並び、そして259安打と追い抜いた。
イチロー選手に大歓声が上がり、セイフィコ球場は異様な興奮に包まれたというけれど、アメリカ人も日本人も関係ない大記録ですね、これは。シスラーの試合数とイチローの試合数を比べて論評している評論家もいるらしいけど、そういう問題ではないだろう。
私は野球はほとんど関心がなくて見ないのだけれど、日本にいたときはシアトルマリナーズのイチロー選手の活躍だけは結構楽しみに観ていた。
ロバート＝ホワイティングの面白い本「菊とバット〔完全版〕」ではないけれど、日本の「野球」とアメリカ合州国の「ベースボール」とは似て非なるものなのだろう。面白さが格段に違う。そういえば、この前の日本のニュースで巨人の視聴率が格段に下がっていると報道されていた。何でも楽しんでやらないと、面白さに欠ける。
そのベースボールの本拠地、大リーグという舞台で、パワーヒッターでなくても、技術・テクニックで自分のやれることを淡々とやり続ける仕事師のイメージがイチローにある。努力を厭わないところに彼の天性があり、それが天才たる所以なのだろう。最近は、イチロー選手の真似をしようとする選手も大リーグに出てきたらしいけれど、イチロー選手に言わせれば、打球をヒットする瞬間にアジャストを加えているから、真似だけしても無理だというコメントを残している。
この大記録を報道するシアトルタイムズのサイトはこちら。
http://seattletimes.nwsource.com/html/mariners/
次の記事は短いけれど大変読み応えのある内容になっている。とりわけイチロー選手のプロ意識に対する書き手の尊敬が感じられて好感がもてる。
19世紀に登場したシスラーと、日本から来たイチローを対照的に扱いながら記事が書かれているのだが、シスラーが亡くなった年にイチローが誕生したことや、シスラーが活躍した時代なら、イチローは人種差別で活躍できなかっただろうし、年齢的にも厳しかっただろうと書かれている。ベースボールを愛したシスラーはイチローを誇りに思っただろうと書かれていることが、とても嬉しい。
そう、イチロー選手の大活躍を祝福するときに、私たちは、第二次世界大戦中の日系移民に対する差別や苦労や、それに対する戦後の補償問題や、大リーグで活躍できなかった黒人選手のことに思いを馳せないといけない。メジャーに入れなかった黒人選手のことは、たしかイチロー選手も以前口にしていたはずだ。だからこそ、イチロー選手のプレー内容だけを見て評価するアメリカ人を私たちが評価できるわけだ。
それにしても、HITS-TORYというHistoryとかけた駄洒落はなんとかならないものか。スポーツ紙の定番なのかもしれないけれど、品格がない。
http://seattletimes.nwsource.com/html/mariners/2002052125_ichiroheads02.html
スポーツイラストレイティッドのサイトはこちら。
http://sportsillustrated.cnn.com/baseball/mlb/
イチローの活躍を見守る日本の様子も報道されている。駄洒落でタイトルがRising Sonとなっている。スポーツ紙の感性というのは、いずこもあまり変らないものであるようだ。
http://sportsillustrated.cnn.com/2004/baseball/mlb/10/02/bc.bba.suzuki.japanreax.ap/index.html
鈴木イチロー選手は、記録達成後、拍手が鳴り止まない中、一塁側のジョージ＝シスラーの81歳になる娘さんのドロッチェルマンさんに走り寄り、握手をしたという。
シスラーの娘さんは、「父が生きていたら、きっと大喜びだと思いますよ」「こんな素敵な若者が素晴らしいプレーをしていることに対して、必ずや嬉しく思っていることでしょう」と、イチロー選手に対して述べたという。これはとても感動的な話だ。
""My father would have been delighted," Drochelman said moments later. "He would be so happy to know such a fine young man was doing so well.""("The Seatle Times" 1st of October, by TIM KORTE AP Sports Writer)
http://seattletimes.nwsource.com/APWires/baseball/D85F2LK80.html
