生徒たちの親の世代は、自分のコトバが奪われた世代

 つまり、この子どもたちは、学校の授業では、マオリ語だけによる授業で、遊ぶときもマオリ語だが、そこは子どもの世界。結構、英語も使う。それで、遊ぶときに英語を使ってはダメという強制はもちろんない。
 それで、家庭では、主流は英語になる。
 この子どもたちの保護者の第一言語は、英語が圧倒的に多いからだ。
 この子どもたちの親の世代は、いわば自分達の本来のコトバが奪われた世代なのである。
 それで、自分達の第一言語は英語であるのに、というよりも英語だから、つまり自分達のコトバが奪われたから、そのコトバを奪い返すために、自分達の子どもには、トータルエマージョンで学ばせたいと判断したり、決意した保護者であるのだ。
 だから、今私がインタビューしている学校長をはじめ、こうした教師たちの目指す目標は、バイリンガル教育というよりは、むしろマオリ語による教育なのである*1
 この学校長自身も英語が第一言語であるという。
 「それでは、両親は、やはりマオリ語を奪われ、英語が第一言語だったのですか」と私が質問をすると、この校長の両親はバイリンガルだったという。ただ、子どもにはマオリ語を話すのはやめようと決意をして11人の子どもを当初育てたらしい。
 生き抜いていくためには、自らのコトバを捨てて侵略者の言語で育てるという悲しみをどれだけ平均的日本人は想像できるのだろうか。

*1:大学レベルのマオリ語による教育は、この学校長によると、ファカターニにあるアワヌイ・アランギ大学(Te Whare Wananga o Awanui Arangi)や、ウエリントン近くのレビン(Levin)にあるラウカワ大学(Te Whare Wananga o Raukawa)などは、マオリ語を中心にカリキュラムを組み立てている教育機関があるらしい。ワイカト大学(The University of Waikato)なども、一部、マオリ語を中心に組み立てているカリキュラムがあるという。