マオリにとっての新年は6月に始まる

 Reed出版社というと、マオリ関係では良質の書籍を出している出版社というイメージが私にはあるけれど、この出版社から、そのまま題名はズバリ、「マタリキ(matariki)」という本が私の手元にある。絵本のように薄いこの本も、アオテアロアニュージーランド滞在中に買い求めた中の一冊である。
http://www.reed.co.nz/products.cfm?view=2932&catID=14
 暦や季節の区切りというものは、住んでいる地理的条件や民族文化の伝統的な認識によって違っていることがある。
 たとえば、メーデーのところでも書いたように、ケルトの暦では、四季というより二つの季節であって、まさにメーデーが夏の始まりで、11月が冬の始まりになる。
 日本にとっては、もちろん1月が年の始まりで、重要な月だ。
 マオリにとっては、マタリキが重要で、新年の始まりは6月になるのである。
 この「マタリキ」という本は、以下のようにマタリキについて紹介している。
 マタリキとは、毎年5月末頃に北東の水平線にあらわれる星の群れである。プレアデス(Pleiades)と呼ばれるこの星の群れは、「七つの姉妹とメシア45」(the Seven Sisters and Messier 45)とも呼ばれている。ギリシャからインドまで古代世界以来有名なこれらの星は、日本では、スバル*1と呼ばれる。
 伝統的にマオリは毎年このマタリキが最初にあらわれるのを楽しみにしていた。というのも、この時期は通常クマラや鳥や魚が豊富な時期であるからだ。
 マタリキが最初にあらわれる、その一週間後が、マオリにとって新年ということで、亡くなった先祖を敬ったり、唄を歌ったり、今年の収穫を見通したりと、大事なお祝いがされてきた。
 ところで、放送人であり教育者でもあったハリー=ダンゼイ(Harry Dansei)が、「プレアデス(マタリキ)に対する無関心という事実が、古い風習が死に絶えるときは本当に死に絶えるのだという事実の証明になっている」(The fact that the appearance of Pleiades-Matariki-is not now well known is proof of the fact that when old customs die, they die indeed.)と1967年に述べたが、ヨーロッパ人が来る前から、マオリにとって大切であったマタリキの風習が60年代にはどうやら死に絶えていたようだ。
 それが、現在、北半球の暦に対抗して、アオテアロアニュージーランドでは、やはり理にかなった伝統的なマタリキ暦を復活させようという文化運動が活発化している。
 そうしたカレンダーとして、このマタリキカレンダーがあるのである。
 「マタリキ」という絵本のように薄いこの本の発行年月日が、2004年の5月であることからも、マタリキについての啓蒙運動が、新しいマオリ文化復興運動の一部であることが容易に理解できる。
 娘が贈ってきたマタリキカレンダーは、マオリの伝統的な誇りをかけた出版物に他ならないのである。

*1:全くの偶然にすぎないが、アオテアロアニュージーランドで私が乗っていたインプレッサは、スバルの自動車である。スバルの星のトレードマークが、まさにマタリキに他ならない。