久しぶりに「男はつらいよ」第1作目を観た。
これは泣ける、笑える。
1969年の作品だが、69年に、こうした人情喜劇を作ったところに、山田洋次という監督の凄さを感じる。山田洋次が30代後半のときの作品。喜劇をつくるシナリオ作家は極めて生真面目に台本を書いているはずだ。
倍賞千恵子が独身時代のさくらを演じ、忍耐と寛容のさくらを演じる。倍賞千恵子という俳優が、その若さとともに花開かんとしている瞬間を本作は見事にとらえている。「職工」の博役の前田吟も初々しい。森川信のおいちゃんと寅の喧嘩も可笑しい。そして泣ける。
博の愛の告白、それに応えるさくらの気持ちが感動的。
さくらと博の結婚式の場面*1がとくに泣かせる。博役の前田吟と博の父親役(諏訪颷一朗)の志村喬の組み合わせがいい。志村喬の何も言わない演技のあとでの心のこもった挨拶も見事というほかない。これは本当に名スピーチである。
父親と息子の確執は古典的テーマなのだ。諏訪の下の名前の漢字が読めないギャグも可笑しい。
品のあるお嬢さんと寅次郎の対比もおかしい。帝釈天のお嬢さんに会いにいく時、無精髭を剃らせる演出は細かい。お嬢さんとのデート。大衆酒場での寅次郎の猫の冗談が最高。
黒澤明監督の映画によく出ていた志村喬や小津映画の笠智衆など、山田洋次監督のもとに名優が集まっていることがわかる。
上野駅での登との別れの場面もいい。
「男はつらいよ」第1作は傑作である。
それにしても、その後のシリーズ化から振り返ってみても、作品の構成にブレがないことにも驚かされる。
さくらと博の結婚、そして満男の誕生と、その後のシリーズ化を予見するかのような作品に仕上がっている点は見事という他ない。
俺が通っていた高校では、毎年文化祭のときに映画祭というのがあって、一作は必ず寅さん、もうひとつは、海外の名画で、「自転車泥棒」「戦艦ポチョムキン」らを二本立てでやっていた。
こうした映画祭がおこなわれていたのも、なかなかモノがわかっている教員がいたからだと私は勝手に思っている。
みんなで一緒に見た映画というのは、忘れがたい。
俺の先輩で、映画配給にかかわる仕事をしている先輩がいるが、映画というのは、一人で観てはいけない。大勢の人と一緒に観ないといけないというのが先輩の自論だが、自分の高校時代を振り返ってみると、その意味がわかる気がする。
マドンナは、光本幸子。
繰り返すが、「男はつらいよ」シリーズで第1作は傑作である。
奈良の東大寺、奈良ホテルも映る。
*1:結婚披露宴の場所は、川甚さん。