「男はつらいよ」第16作「葛飾立志篇」を観た

葛飾立志篇

 これも前に観たことがあるが、「男はつらいよ」第16作「葛飾立志篇」を観た。
 その昔、旅先で腹を空かせた寅さんが桜田淳子演じる女学生の母親・雪の食堂で世話になりご飯をご馳走になる体験をしみじみ語る寅さんのアリア。誰しも聞き覚えのある話であり、説得力がある。
お雪さんの、自分の不幸せも人間を観る眼がないのも学問がないばかりにという後悔は私たちに共通のものであろう。己を知り、他人を知り、世界を知る。己の愚かしに気がついた人間は愚かとは言えませんという、大滝秀治演じる僧侶の言葉が身に沁みる。
 僧侶が「朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり」と寅に教える。
孔子のこの言葉は俺も高校時代の漢文の授業で習ったことがある。深い言葉だ。
 帝釈天の参道で、「なんで学問をするのか」という寅さんの問いに対して考古学を専攻するインテリ女史・筧役の樫山文枝が答えに詰まると、寅さんは「己を知るため」と語り、筧は納得する。これはなかなかいい場面だ。
学問はなぜするのか。己を知るためという寅との問答を感心しながらとらやの家族に筧女史が話す場面も笑える。
 小林桂樹が演じる大学教授も、恋愛論をぶつ寅さんの講義に説得して、「君は僕の師だよ」というのも可笑しい。
本作は、経済的に困窮している子どもの学習支援の応援歌にもなっている教育論満載の作品。
 1975年公開。