Randy Newmanの"Louisiana 1927"


 Randy Newmanの“Good Old Boys”(1974)という南部をテーマにしたコンセプトアルバムの中に”Louisiana 1927”という唄がある。1926年秋、何ヶ月も雨が降り続き、ニューオリンズを守るために上流のダムをダイナマイトで吹き飛ばすということがあって、結果的にニューオリンズは守られたのだが、翌年大洪水によってルイジアナミシシッピで何百人もの死者と70万人ものホームレスの犠牲者を出すことになる。これを歌ったのが、”Louisiana 1927”だ。
 3分にも満たない歌だが、よくできた歌である。
 ほんの少しだけ歌詞を紹介すると・・・。

Some people got lost in the flood  
Some people got away alright   

 洪水でなくなった者もいるし
 なんとか助かったものもいる

President Coolidge came down in a railroad train 
 With a little fat man with a note-pad in his hand 
 The President say, “Little fat man isn’t it a shame what the river has done to this poor crackers’ land.” 

 片手にメモ帳を持った者を従えて列車でクーリッジ大統領がやってきた
 大統領は言った、「本当に残念だね、この貧乏白人の土地への川による自然災害は」と。

 Louisiana, Louisiana 
They’re tryin’ to wash us away
They’re tryin’ to wash us away

    
 ルイジアナルイジアナ
 奴らは俺たちを押し流そうとしている
 奴らは俺たちを押し流そうとしている


 "Loo-eez-ee-ann-a, they’re tryin’ to wash us away"と歌の中で繰り返されるが、このtheyは何を指しているのか。自然なのか人間なのか。だらしのないことに正直よくわからない。洪水(the floods)と考えるのが普通だが、私にはこれは狭義には大統領らの政治家を、広義には人間を指し、したがって政治の貧困を、そして人災を表現しているように思えてならない。
 つまり、災害となれば大統領が視察に来て嘆くが、これは自然災害なのか、はたまた人災なのか。政治家は自然災害と嘆くけれども、政治の責任を棚に上げておいて嘆くとはどういうことなのか、政治の無責任を嘆くべきではないのか、そんな声が行間に聞こえてくる詩のように思えてならないのだ*1
 ハリケーンカトリーナによるニューオリーンズの大災害が起こった2005年に”Louisiana 1927”がまた注目された。クーリッジ大統領がBush大統領に置き換えられる替え歌がたくさん作られたし、ニューオリーンズで活躍するAaron Nevilleもカバーしていた*2
 ひるがえってちょうど一年前、2011年3月11日の日本の大災害である。
 「未曾有」というのは、「いまだかつてないこと」という意味だという*3。「歴史上いまだかつてない」という意味では使い方が正確ではないのではないか、昨年3月11日の大津波は「地震津波の専門家ならこの規模の災害が起こることは当然考えておかなければならなかったこと」(畑村)と指摘されているように、事実、1997年以来、「原発震災」(石橋克彦)の警鐘は鳴らされていた。つまり、3・11もThey’re tryin’ to wash us awayの繰り返し、すなわち教訓から学ばない、人災の繰り返しに他ならないのではないか。
 その意味で、Randy Newmanの”Louisiana 1927”は今日なお生命力ある唄であるという他ない。
 大変残念ながら、大津波原発事故の鎮魂歌としてもふさわしいように思う。

*1:実際の史実によれば、クーリッジ大統領は視察に行っておらず、この部分はRandy Newmanの創作だという。

*2:「貧乏白人」を指す“cracker”は蔑称と考えられるので、”farmer”と言い換えて歌われている。

*3:「未曾有と想定外 東大震災に学ぶ」畑村洋太郎 2011年