「(時時刻刻)沖縄・報道の自由、威圧 自民勉強会」

amamu2015-06-28

 朝日新聞デジタル版(2015年6月27日05時00分)から。
 

 「沖縄の新聞社はつぶせ」「マスコミを懲らしめるには広告がなくなるのが一番」――。自民党の勉強会で飛び交った放言は、26日の衆院特別委員会で集中砲火を浴びた。勉強会は安倍晋三首相を支える中堅・若手が開いただけに、野党は「沖縄」の尊厳を侵したり、報道の自由を威圧したりするような姿勢に対し「安倍政権の本質的な問題だ」と追及した。


 ■「広告料なくなるのが一番」「沖縄のゆがんだ世論」

 勉強会「文化芸術懇話会」は25日夕、自民党本部で開かれた。

 「九条の会」の発起人に名を連ねる作家・大江健三郎さんや、脱原発に取り組む音楽家坂本龍一さんら、リベラル系文化人の発信力に対抗し、政権の思想や政策を文化人を通して発信してもらう狙いだ。

 最初の講師に選ばれた百田尚樹氏は、報道陣に公開された冒頭で「反日とか売国とか、日本をおとしめる目的で書いているとしか思えない記事が多い」とマスコミ批判を展開。議員は「そうだ!」と盛り上がった。

 その後、会合は非公開となった。出席者などへの取材によると、百田氏の講演が終わり、議員側との質疑応答に移ると、百田氏の冒頭発言が呼び水となったかのように、報道規制を正当化する発言が相次いだ。

 大西英男衆院議員(東京16区)は「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」。井上貴博衆院議員(福岡1区)が「福岡の青年会議所理事長の時、委員会をつくってマスコミをたたいた。日本全体でやらなきゃいけないことだが、テレビのスポンサーにならないのが一番こたえることが分かった」と続けた。百田氏は「新聞よりテレビだ。五つの民放が、自由競争なしに地上波という既得権益を手放さない」などと応じた。

 その後、長尾敬衆院議員(比例近畿ブロック)が「沖縄」に話題を移す。沖縄タイムス琉球新報という二つの地元紙を名指しし「沖縄の特殊なメディア構造をつくったのは戦後保守の堕落だ。沖縄の世論はゆがみ、左翼勢力に完全に乗っ取られている」と主張。これに応える形で百田氏が「沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん」と述べたが、笑いでざわめくのみで、発言を注意する声はなかった。

 さらに百田氏は「左翼は沖縄に基地があるから、米兵が沖縄の女の子を強姦(ごうかん)すると批判するが、データ的にいうとひどいウソだ。米兵が犯したレイプ犯罪よりも、沖縄県全体で沖縄人自身が起こしたレイプ犯罪の方が、はるかに率が高い」とまで述べた。会合の最後、百田氏が「政治家は言葉が大事。『負』の部分はネグったら(無視すれば)いい。いかに心に届くかだ」と締めくくると、会場からは大きな拍手が起きた。

 百田氏の発言内容にもかかわらず、勉強会の代表を務める木原稔・党青年局長は会合後、記者団に「百田氏は自分の強い信念に基づいて発信し、国民に受け入れられている。われわれ政治家が学ばなきゃいけない」と語っていた。

 出席者の一人も26日夜、軽い調子で振り返った。「百田さんの話がめちゃくちゃ面白かったから、居酒屋トークみたいになっちゃったんだよ」

 (二階堂友紀)


 ■首相陳謝せず「私的な会」

 「事実であるとすれば大変遺憾だが、行政府の責任者としてだれがどう発言したのか報告するのは難しい」。首相は26日、安全保障関連法案を審議する衆院特別委員会で語った。民主党の寺田学氏が勉強会での発言内容を確認するよう求め、浜田靖一委員長が確認。それでも首相が事実関係を説明することはなかった。

 「報道の自由」や「沖縄との信頼関係」を揺るがす発言だが、明確な陳謝もなかった。首相は「その場にいないにもかかわらず、勝手におわびすることはできない。発言した人物のみが責任を負うことができる」と語り、民主党辻元清美氏は「自民党として恥ずかしいとの言葉はないのか」と追及した。

 首相は発言者への処分について問われたが、「私的な勉強会で自由闊達(かったつ)な議論がある。言論の自由は民主主義の根幹をなすものだ」と否定した。沖縄1区選出で共産党赤嶺政賢氏が自民党に「何が自由と民主主義だ」とヤジを飛ばし、騒然とする場面もあった。

 自民党内からも、沖縄を地盤とする宮崎政久氏が勉強会代表の木原稔青年局長に百田氏の発言について「歴史に対する無理解だ」と抗議。木原氏は「事実と違うならメンバーに正しいことを伝えなければいけない」と語った。

 通常国会は安全保障関連法案を成立させるため、延長を決めたが、自民党佐藤勉国会対策委員長は周辺に「毎日毎日、鉄砲玉が後ろから飛んでくる」と漏らし、いら立ちを隠さない。憲法学者から法案を「憲法違反」と指摘されたことに続く大きな火種になった。

 野党が特に問題視するのは「(勉強会は)首相の応援団。安倍政権の体質が本当に劣化している」(辻元氏)とみるためだ。勉強会には首相側近の加藤勝信官房副長官らが参加したが、逆に、同じ日に開催を予定していたリベラル系議員の勉強会には、党執行部が「時期が悪い」と注文をつけ、結果的に開かれなかった。

 異論を封じる姿勢はメディアに対しても続く。昨年の衆院解散直後、党はテレビ各局に選挙報道の公正中立を求める文書を送付。今年4月には党幹部がテレビ朝日とNHKの幹部を呼び、報道番組の内容について事情を聴いた。

 首相と距離のある党中堅議員はこう切り捨てた。「首相の応援団のはずが、逆に足を引っ張っているじゃないか」

 (高橋福子、笹川翔平)


 ■沖縄2紙「言論弾圧の発想そのもの」

 沖縄タイムス琉球新報は26日、武富和彦、潮平芳和両編集局長名で「百田氏発言をめぐる共同抗議声明」を発表した。全文は次の通り。

 百田尚樹氏の「沖縄の2つの新聞はつぶさないといけない」という発言は、政権の意に沿わない報道は許さないという“言論弾圧”の発想そのものであり、民主主義の根幹である表現の自由報道の自由を否定する暴論にほかならない。

 百田氏の発言は自由だが、政権与党である自民党の国会議員が党本部で開いた会合の席上であり、むしろ出席した議員側が沖縄の地元紙への批判を展開し、百田氏の発言を引き出している。その経緯も含め、看過できるものではない。

 さらに「(米軍普天間飛行場は)もともと田んぼの中にあった。基地の周りに行けば商売になるということで人が住みだした」とも述べた。戦前の宜野湾村役場は現在の滑走路近くにあり、琉球王国以来、地域の中心地だった。沖縄の基地問題をめぐる最たる誤解が自民党内で振りまかれたことは重大だ。その訂正も求めたい。

 戦後、沖縄の新聞は戦争に加担した新聞人の反省から出発した。戦争につながるような報道は二度としないという考えが、報道姿勢のベースにある。

 政府に批判的な報道は、権力監視の役割を担うメディアにとって当然であり、批判的な報道ができる社会こそが健全だと考える。にもかかわらず、批判的だからつぶすべきだ―という短絡的な発想は極めて危険であり、沖縄の2つの新聞に限らず、いずれ全国のマスコミに向けられる恐れのある危険きわまりないものだと思う。沖縄タイムス琉球新報は、今後も言論の自由表現の自由を弾圧するかのような動きには断固として反対する。


 ■百田氏「冗談のつもり」

 朝日新聞の取材に応じた百田尚樹氏の話 報道されている発言内容は、講演で言ったのではなく、講演後の出席議員との雑談のなかでポロッと出た軽口だった。冗談のつもりで、本意ではない。出席者の誰かが「沖縄の人やメディアの意識はやっかいだ」と言ったので、それに答える形で「やっかいやなあ、(沖縄の二つの地元紙は)つぶさんとなあ」とは言った。地元紙はほとんど読まないし、自分の悪口ばっかり書くからきらいだが、本当に潰さないといけないとまで思っていない。出版社や新聞社はアンタッチャブルな領域で、権力によって圧力をかけられるべきではない、とも思っている。

 ◆大阪府出身。放送作家としてバラエティー番組「探偵!ナイトスクープ」(朝日放送)などを手がける。2006年に「永遠の0」で作家デビュー。13年11月〜15年2月、NHKの経営委員を務めた。安倍首相の支持者として知られ、首相との共著もある。


 ■<考論>「つぶせ」権力のおごり

 砂川浩慶(ひろよし)・立教大学准教授(メディア論)の話 今回の百田氏の発言は、非公開の場という油断があったのだろうが、逆にいえば元々の考えが出てきた「本音トーク」。民間人の発言とはいえ、人選の段階で何を話すかは想像できる。自分たちの思いを代弁する人を呼んでいるわけで、今の自民党の思いが反映されていると言える。主催者として発言内容に責任を持つべきで、意に沿わない発言ならその場で指摘する必要があるだろう。

 安倍政権では、たびたびメディアを名指しした批判が問題になってきた。報道の自由の根っこにあるのは少数意見の尊重。東京から見て「少数」である沖縄の意見を「つぶせ」というのは権力のおごりで、民主主義の根幹を理解していないといわざるを得ない。


 ■勉強会 主な発言

 ・大西英男衆院議員(東京16区、当選2回)

 「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。安倍晋三首相も言えないことだが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」

 ・井上貴博衆院議員(福岡1区、当選2回)

 「青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある。スポンサーにならないことが一番(マスコミは)こたえることが分かった」

 ・長尾敬衆院議員(比例近畿ブロック、当選2回)

 「先生なら沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくために、どのようなアクションを起こすか。左翼勢力に完全に乗っ取られている」

 ・百田尚樹氏 

 「本当に沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん。沖縄県人がどう目を覚ますか。あってはいけないことだが、沖縄のどっかの島でも中国にとられてしまえば目を覚ますはずだ」

 「もともと普天間基地は田んぼの中にあった。周りに何もない。基地の周りが商売になるということで、みんな住みだし、今や街の真ん中に基地がある。騒音がうるさいのは分かるが、そこを選んで住んだのは誰やと言いたくなる。基地の地主たちは大金持ちなんですよ。彼らはもし基地が出て行ったりしたら、えらいことになる」

 「沖縄の米兵が犯したレイプ犯罪よりも、沖縄県全体で沖縄人自身が起こしたレイプ犯罪の方が、はるかに率が高い」


 ◆25日の勉強会は冒頭以外は非公開で行われたため、朝日新聞は勉強会の複数の出席者を取材するなどし、26日付朝刊で「メディア規制」に関する発言内容を報じた。その後の取材で、百田氏の「沖縄の二つの新聞社は絶対につぶさなあかん」などの発言が明らかになったことから、本人らに取材したうえで、26日付夕刊と27日付朝刊で報道した。