「ピーター・バラカンさんと読む『スウィート・ソウル・ミュージック』」

Sweet Soul Music



 以下、朝日新聞デジタル版([掲載]2015年08月23日)の「思い出す本 忘れない本」欄から。
 ブロード・キャスターのピーター・バラカンPeter Barakan)さんの書かれた本は数冊読んでいるが、紹介されているこの本は読んだことがない。

 今度、読んでみたいと思う。


■音楽の本質的な力強さ

 ロンドンで過ごした10代の頃、1960年代から70年代にかけて僕らの世代はまず、ビートルズや不良の匂いがするローリング・ストーンズをラジオで聴いて影響を受けました。だけど66年、15歳のときにポール・バターフィールド・ブルース・バンドのレコードを買って、僕はブルースという音楽のもつ計り知れない力強さと即興のスリルを知ったんですね。
 チャック・ベリーら黒人の音楽に影響されたストーンズザ・フーよりもさらに深い世界がある。オリジナルのほうがはるかにパワフルで本物というか、音楽がもつ本質的な力が突き刺さってくる。衝撃を受けました。それからソウルミュージックをたくさん聴き、黒人音楽を知ったつもりでいました。でも86年に米国で出版された『スウィート・ソウル・ミュージック』を読んで、20世紀の最も重要な社会運動のひとつ、公民権運動の影響が最もよい形で現れたのがソウルなんだということを、理解できるようになったんです。
 黒人は、毎日が差別との闘いの中にあった。その中でオーティス・レディングアレサ・フランクリンは大スターになった。アトランティックやモータウンといったレコード会社が、白人に黒人音楽を聴かせるためメディアを活用し、彼らを商業的に成功させた。
 僕が日本に来たのは74年で、音楽関連の会社に勤めました。その後フリーになって初めて書いた本が、89年刊の『魂(ソウル)のゆくえ』(現、アルテスパブリッシング)というソウルミュージックの入門書でした。僕が企画したラジオ番組がきっかけで、執筆依頼を受けました。その頃、日本ではソウルを紹介する本がほとんどなかったんですね。そのとき、最も参考にした1冊がこの本でした。その後、2005年に日本語版が出ましたが、今も古びない普遍性を持っていて、僕には一生手放せない大事な本なんです。
(構成・依田彰)