「「テロの標的になる可能性高まる」 NGOに広がる懸念」

amamu2015-09-18


 以下、朝日新聞デジタル版(2015年9月19日00時33分)から。
 18日の夕刊に掲載された記事(佐々木亮、遠藤雄司、山本亮介)に、あらたな記事(沢木香織)が付け加えられている。

 自衛隊の武器では安全は守れない。日本への反感を招くだけだ――。参院特別委員会で可決された安保関連法案について、海外で国際協力に取り組むNGOの間に懸念が強まっている。団体の枠を超えたネットワークも生まれている。

中村哲医師「支援活動ストップも」

 「紛争相手に軍事同盟と見なされ、日本や海外の日本人がテロの標的になる可能性が高まる」

 アフガニスタンで支援活動をするNGO「ペシャワール会」(福岡市)現地代表で医師の中村哲さん(69)は、安保法案で自衛隊が戦闘中の他国軍に対し、可能になる「後方支援」を挙げ、そう指摘した。

 同会は1980年代から医療支援を始め、2000年に水利事業に乗り出した。干ばつで清潔な水が不足し、感染症が急増したためで、約1600カ所の井戸を掘った。

 03年からは用水路も建設。3千ヘクタール以上の農地をよみがえらせ、約16万人の帰農を支援したという。

 中村さんが懸念するのは後方支援だけではない。法案が成立すれば、海外のNGOが武装集団に襲われた際に助けに向かう「駆けつけ警護」も可能になる。だが、中村さんは「かえって危険が増す」とみる。

 アフガンでは、日本が第2次世界大戦後、海外に進駐していないことは知られているという。だが、米軍の後方支援を名目に自衛隊がアフガンに来ることになれば、「自分たちの土地に踏み込んでくる」という日本への反感を招くとみる。

 その矛先が現地の日本人スタッフらに向けられ、危害が及ぶ心配もあるため、支援活動は「ストップせざるを得ない」と語る。

 「私たちが現地の人々の命を守る活動をしているからこそ、現地の人から大事にされ、守ってもらえる。それが最大の防衛。自衛隊の武器では安全は守れない」と指摘。「お金を使って敵意を買うようなことをするより、他にすべきことがある」と強調する。

 危機感を抱いているのは同会だけではない。海外の紛争地で医療支援などを行うNGOの有志らが7月、法案に反対するネットワーク「NGO非戦ネット」を設立。9月上旬までに36カ国、331団体の賛同が集まった。現場での体験から、「平和主義が崩れれば、私たちも危険になる」との危機感を共有する。

 同ネットは近く反対声明を出す予定だ。呼びかけ人の一人で日本国際ボランティアセンター代表理事の谷山博史さん(57)は「法案が通ったら終わりではない。現実に法律が運用されないよう、息の長い運動をしていきたい」と話した。(佐々木亮、遠藤雄司、山本亮介)

■京都のNPO「現地で信頼失う」

 京都市の認定NPO法人「テラ・ルネッサンス」で理事長を務める小川真吾さん(40)は、内戦の影響が残るアフリカ中部のブルンジで子どもの時に兵士とされた若者ら紛争被害者の社会復帰を支援している。安保法案が成立すると、「現地住民の信頼を失い、日本の市民団体が海外で活動しにくくなるのではないか」とみる。

 10年前からアフリカに駐在。ウガンダコンゴ民主共和国でも性犯罪被害者らの自立を促す職業訓練をしたり、欧米から流入したとみられる小型武器の危険性を啓発したりしてきた。テラ・ルネッサンスは非戦ネットの賛同団体でもある。

 現地では、過去の欧州の植民地支配に対する不信感が根強く残る。一方、日本は「戦争放棄」をうたう憲法9条のもとで70年間にわたって戦争をせず、アフリカの植民地支配にも関わってこなかったことが現地での信頼につながっているという。

 ブルンジでは7月、現職の大統領が憲法で禁じられた3選を強行。政府は市民やメディアを弾圧し、国際社会から非難された。「安保法案も違憲性を指摘されています」と小川さん。テラ・ルネッサンスを含む45団体が加盟する「関西NGO協議会」は7月、安保法案の採決を強行しないよう求める声明を出した。

 小川さんは「難民支援など非軍事でやるべき活動がたくさんある。日本らしいやり方はいくらでもあるはずです」と話している。(沢木香織)