「高橋源一郎とSEALDs 前途に光、心洗われる対話」

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 以下、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんによるエッセーの「寂聴 残された日々:6」より。朝日新聞デジタル版(2015年11月13日05時00分)から。

世の中が混沌(こんとん)として、日本はこの先、どうなっていくのかと不安が頭一杯になり、93年も生きてきて、こんな不確かな国の状態を見つめながら生涯を閉じるのかと思うと情けなくて、まだ死ねないと烈々と闘志が湧いてくる。しかし如何(いかん)せん、身体は確実に日々衰えてゆき、想(おも)いの半分も動いてくれない。えいっと力をこめて、健康だった時のように、対談やテレビ出演を引き受けてみるし、法話も寂庵(じゃくあん)でならと、特別法話というのを次々引き受けている。

 とにかく、それらを何とかこなすことは出来、それらにつきあってくれた人々は、前とそっくりに元気になったと言ってくれるものの、一人になると、どっと疲れがふき出てきて、ばたっと、ベッドに倒れこんでしまう。「やせがまん張らないで下さい」と、65歳も年少の秘書に冷然と言われてしゅんとする。それでもこんな世の中、何とかならないかといらいらする。

 体の動かない分、終日、本ばかり読んでいるが、繰り返し読んで飽きないのが、SEALDs(シールズ)の若い人たち高橋源一郎さんの対話でなり立った本である。「高橋源一郎×SEALDs 民主主義ってなんだ?」「SEALDs 民主主義ってこれだ!」という本に教えられることが多い。

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 若者が全く政治に関心ゼロといわれ、10代、20代の男子が女の子に興味もなくなり、草食系など情けない名で呼ばれる世の中に絶望しかけていた私にとって、突然降って湧いたようなSEALDsの出現は驚異的だった。これらの本で識(し)ったメンバーの身の上話だけでも小説が十くらいできそうに面白い。

 そこへ高橋源一郎さんが現れて、彼らの話をよく聴き、適切な指導や注意を与えるのだから安心できる。私は今の世の混乱を見ながら、かつて若者たちの神さまみたいに彼らの憧れで思想の中心になっていた小田実(まこと)さんを思いだしていた。小田さんの最期まで気を許しあった仲だった私にとっても、小田さんは頼もしい柱だった。まだ独身だった小田さんには若い人たちを思想的にも惹(ひ)きつけると同時に、セクシーな魅力も持っていて、若い進歩的な女性たちは夢中になって小田さんに憧れ情熱をかきたてていた。ベ平連の運動が一まずおさまった後で、もしかして政治に引っぱられるのではないかとはらはらしていたが、そういうこともなく愛妻家でやさしい父親となった後に、病に倒れて惜しい命を散らしてしまった。

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 今、小田さんの生まれ変わりのように高橋さんが若いSEALDsの人たちの頼もしい柱になっている。ユーモアを解し、学も深い、色の道にも詳しい高橋さんが、若い彼らに対する態度はゆったりとして優しく頼もしい。

 彼らの対話を読んでいると、自分まで心が洗われて、前途に光が見えてくる。万物はすべて変転する。人も、政治も、四季の自然も。変わることに希望をかけて、超高齢者も若者に負けず、命ある限り、前向きで進もう。