「忖度報道「まるでホラー」」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2017年4月24日14時07分)から。

■報道の「自己規制」描いた劇作家、永井愛さん(65)

 今年1月から3月にかけ、「ザ・空気」と題した芝居を全国11カ所で公演しました。テレビの報道局でその日放送する予定のニュース特集が、試写を見た上層部からの注文を受けたり、現場が上司の意思を忖度(そんたく)したりして、徐々に内容を変えていく物語です。

 戯曲を書くきっかけは、昨年2月の高市早苗総務相の「電波停止」発言。放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、大臣が電波停止を命じる可能性に言及しました。その後、国際NGOの「報道の自由度ランキング」で、日本は72位まで順位を下げました。

 なぜこんなことに? 報道関係者が書いた本などを手がかりに調べ、テレビ局の方にも取材しました。放送免許の許認可権を政府が握るなどいまのメディアが置かれた状況で、上層部がもし極端な編集方針を出したら、一記者の良心だけであらがえるか。普段は「圧力を感じない」という記者も「社内の空気を読むことはある」と言いました。ここに「自己規制」が始まる素地があると思います。

 観客からは「まるでホラー。血も出ないし、暴力もないけど怖い」という反応が多かった。マスコミで働いていなくても、みな、思い当たる部分があるのでしょう。「“お察し機能”が搭載されていない人はダメ」という日本の風潮は根強いのでは。だから、忖度に忖度を重ねる。その危険性は誰にでもあります。

 前の続き3年前の芝居「鷗外の怪談」で、森鷗外大逆事件をめぐり、作家と軍職という二つの立場の板挟みにあう様子を描きました。現実には大逆事件後、治安維持法ができ、表現の自由が制限され、小林多喜二の虐殺まで一直線です。二度と同じことが起きないようにしようというのが、戦後の出発点だった。なのに、今また、治安維持法と似たような「共謀罪」の制定が急がれようとしています。

 いま、ネット上には激しい言葉があふれていますが、少数の人が繰り返し投稿しているだけかもしれない。報道に携わる人は空気を読んで忖度や自己規制をするのをやめ、「事実」を書き続けてほしいと思います。(阿久沢悦子)

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 ながい・あい 劇作家で演出家。「二兎(にと)社」を主宰し、身近な問題を社会的な視点で描き、幅広いジャンルを手がける。代表作に卒業式での君が代斉唱を扱った「歌わせたい男たち」、森鷗外大逆事件の関わりを描いた「鷗外の怪談」など。