「稲田氏、辞任の舞台裏 悪循環の末、内閣改造までもたず」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2017年7月28日05時06分)から。

 就任から約1年、言動が問題視され続けてきた稲田朋美防衛相が辞任の意向を固めた。

 27日午後、首相官邸。稲田氏は国家安全保障会議(NSC)の前に首相執務室に足を運んだ。面会時間は約30分。その後、官邸を出る際には記者団に「(防衛監察本部の)報告書の説明をしてきた」とだけ説明。記者団から自身の進退について問われても、無言を貫いた。

 だが、政府関係者によると、稲田氏はこの場で、安倍首相に引責辞任する意向を伝えたという。狭まる包囲網に耐えきれず、8月3日に予定している内閣改造までたどりつかない幕切れだった。

 首相周辺によると、首相は内閣改造で稲田氏を交代させ、「重要閣僚の更迭」という政権への打撃を少しでも軽減する戦略を描いていた。だが、南スーダンPKOに派遣された陸上自衛隊部隊が作成した日報が「廃棄した」とされた後に陸自内で見つかった問題で、「組織的な隠蔽(いんぺい)」疑惑が浮上。稲田氏の関与が取り沙汰される事態に発展した。

 稲田氏は国会や記者会見で自らの関与を否定し続けたが、稲田氏の関与を裏付ける新たな事実をうかがわせる報道が相次ぎ、稲田氏の説明や政権の対応への疑念がいっそう強まるという「悪循環」に陥った。自民党の閣僚経験者は「首相は国益より私的感情重視でここまで引っ張り、傷口を広げた」と述べ、これまで稲田氏を更迭する機会は何度もあったと指摘する。

 実際、2月中旬に稲田氏のほか黒江哲郎事務次官、岡部俊哉陸上幕僚長らが出席した幹部会議で、陸自内の電子データを保管していたことが報告されたと報じられた際も、稲田氏は「陸自にデータが残っていたという報告があったとの認識はない」と否定。説明責任を果たそうとしない稲田氏を首相や菅義偉官房長官もかばい続け、世論の批判を招いた。

 当初、稲田氏は日報問題に関する防衛監察本部の調査結果を21日に公表する方向で調整に入った。しかし、政権全体への逆風が強まる中、公表はいったん先送りにされた。この頃には、足元の与党内からも「稲田氏を早期に罷免(ひめん)すべきだ」(自民党の防衛相経験者)との声が出始めた。

 それでも首相は25日の参院予算委員会の閉会中審査で野党の罷免要求に対し、「日報問題で徹底的な調査を行い、改めるべき点があれば大臣の責任において徹底的に改善し、再発防止を図ることで責任を果たしてまいりたい」と強調。政権として稲田氏に特別防衛監察の結果公表まで責任を持たせる考えを示した。

 だが、学校法人「森友学園」や「加計学園」をめぐる政権への逆風に加え、7月の東京都議選自民党が惨敗したことで、安倍政権には稲田氏を8月3日までかばい続ける体力はすでになくなっていた。

 日報問題で区切りをつけ、直後の内閣改造で稲田氏を辞任させる――。そんなシナリオも、あっけなく崩れた。さらに首相は27日、麻生太郎副総理に防衛相兼務を打診したが、麻生氏の都合がつかず断念。野党ベテラン議員はこう言って、政権の失速ぶりを表現した。「民進党蓮舫代表が辞めた。稲田防衛相も辞める。あとは安倍首相だけだ」