「(わたし 第二章)新しい仲間と:1 自主夜間中学で「授業」 前川喜平」

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以下、朝日新聞デジタル版(2018年7月9日16時30分)から。

 昨年1月に文部科学省を辞めてから、実にいろいろな人たちと出会い、新しい友だちや仲間ができた。

 中でも、「福島駅前自主夜間中学」と神奈川の「あつぎえんぴつの会」の二つの自主夜間中学には、ボランティアとして参加している。

 福島自主夜間中学は、毎月第1・3水曜の午後と第2・4金曜の夜に開催。きっかけは、昨年1月14日に文部科学事務次官として講演したことだ。その一月前に「教育機会確保法」という義務教育未修了者のための学習機会の確保に関する法律が成立していた。夜間中学は、義務教育を受けられなかった人たちの最後のよりどころ。すべての人に教育の機会を保障することは、教育行政の第一の目標だ。私は夜間中学を支援したいと常に思っていた。この法律は、これまで一貫して冷淡だった国に方針転換を求めるものだった。私は現職中から夜間中学関係者からの要望には極力応えることにしていた。

 すでに文科省内でいわゆる「天下り問題」が大ごとになり、私は引責辞任を決めていた。辞任の日も1月20日と決まっていた。そのような事情は一言も話さず、講演会を終えて代表の大谷一代さんに「文科省を辞めたらお手伝いさせてもらえますか」と尋ねると、二つ返事で了解してくれた。そこで、退任2週間後の2月1日から参加することになった。最初の「授業」は、講演がよく分からなかったという高齢男性に、講演内容を説明すること。テキストは私自身の講演録だった。最近は3〜4人の方と一緒に朝日新聞を読みながら時事問題を勉強している。

 あつぎえんぴつの会の代表岩井富喜子さんは元小学校の先生。福島のご出身で、月に1回、福島自主夜間中学に顔を出している。その岩井さんに誘われて、昨年3月から会に顔を出すようになった。開催日は毎週木曜。一度も学校に通ったことがないという高齢男性に、東西南北などの漢字を教えた。ご要望に応じて憲法の勉強や仏教の勉強もしている。

 自主夜間中学は大人のフリースクールだ。学びたい人が集まり、思い思いに学びたいことを学んでいる。その自由さがとてもいい。(前文部科学事務次官)=全8回

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 前川喜平(まえかわきへい) 1955年生まれ。東京大学法学部卒業。79年、文部省(当時)入省。官房長、初等中等教育局長などを経て、2016年に文部科学事務次官に就任、17年に退官。