「(わたし 第二章)新しい仲間と:5 自分の頭で考え生きる 前川喜平」

 以下、朝日新聞デジタル版(2018年8月20日16時30分)から。

 今年3月に退職されたお二人の校長先生のことを記したい。1人は名古屋市立八王子中学校の上井靖校長、もう1人は長野県木島平村立木島平中学校の関孝志校長だ。お互いはご存じないが、私とは数年来のお付き合いだ。

 八王子中学校にお招きいただいたのは今年の2月16日。体育館で全校生徒を前に、上井校長と掛け合い で話をした。宮沢賢治の詩、私の不登校経験、自分で自分の性格を変えることができること、文部科学省での仕事、夜間中学でのボランティアのことなどを話した。
 この授業について、その後文部科学省から名古屋市教委へメールで詳細な質問が届いた。その顛末(てんまつ)については深入りしないが、このとき上井校長が行った記者会見が見事だった。中でも感心したのは「生徒の主体性を育てるためには、教職員の主体性が必要」という言葉だ。生徒たちには「取材を受けたら自分の言葉で答えればいいよ」と伝えたそうだ。生徒の主体性を信じているから言える言葉だと思う。
 木島平村は米どころ。タカの一種の渡り鳥サシバの生息地でもある。初めて訪問したのは2013年の夏。千葉県習志野市立秋津小学校を拠点として地域活動を行う「秋津コミュニティ」の顧問で文部科学省のコミュニティ・スクール推進員(CSマイスター)である岸裕司さんに誘われ、同村のコミュニティ・スクール研修会に参加した。この研修会の仕掛け人が当時木島平小学校の校長だった関孝志さん。地域に開かれた学校づくりを進めていた。
 翌年に参加したときは、関校長のはからいで、岸さんと一緒に木島平小学校の6年生と話し合う時間をもらった。この時の6年生が中学校を卒業することになった。今年3月12日、木島平小学校から木島平中学校へ異動した関校長が、卒業生たちにメッセージトークをする機会をくれたのだ。私が一番伝えたかったのは「自分の頭で考えて確かだと思ったことを信じて生きてほしい」ということ。自分の人生とふるさと木島平の将来を、自分自身でしっかりと考えていってほしいと願っている。(前文部科学事務次官)=全8回
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 前川喜平(まえかわきへい) 1955年生まれ。東京大学法学部卒業。79年、文部省(当時)入省。官房長、初等中等教育局長などを経て、2016年に文部科学事務次官に就任、17年に退官。