以下、朝日新聞デジタル版(2018年7月14日05時00分)から。
西日本を中心に大雨特別警報が発表されてから1週間が過ぎた。政権幹部の危機意識や防災情報の共有は当初から図られていたのか。救命・救助活動への影響はなかったのか。平成で最悪となった豪雨災害の初動対応を検証する。
■菅氏「万全の態勢」
7月に入り、台風7号が日本列島に迫った。広範囲で雨が降り、各地の地盤は緩んでいた。
気象庁は5日午後2時に記者会見を開き、8日にかけて東日本から西日本の広い範囲で記録的な大雨となる恐れがあると発表。避難を呼びかけた。
内閣府はそれから1時間半後に、各省庁課長らを集めた災害警戒会議を開いた。小此木八郎防災担当相が出席したのは、24時間の雨量が400ミリに達するとの予報に政府内の緊張感が高まったからだった。
「九州北部豪雨」からちょうど1年。小此木氏は「大災害を改めて思い出し、対策に万全を期すように」と指示した。午後10時までに、京都、大阪、兵庫の3府県約11万人に避難指示が出た。安倍晋三首相らが自民党の国会議員による酒席の懇親会に出席したのは、この夜のことだった。
6日未明には、京都府が災害派遣要請を行い、自衛隊が出動。気象庁が午前10時半に「大雨特別警報」を「発表する可能性がある」と異例の警告を行った。
気象庁は午後5時10分以降大雨特別警報を8府県に出した。7日朝にかけ、自衛隊への災害派遣要請は7府県10件にのぼった。
政府が拡大する被害への対応を協議するため関係閣僚会議を開いたのは7日午前10時。「非常災害対策本部」を設置したのは8日午前8時だ。最初の大雨特別警報発表の約39時間後で、政府が把握する死者はすでに48人にのぼっていた。内閣府によると、対策本部設置の明確な基準はなく、気象情報や被害状況などを踏まえて首相が判断するという。
初動対応について、首相は「政府一丸となって発災以来、全力で取り組んできた」。菅氏も13日の記者会見で「被害の拡大を想定し、いかなる事態にも対応できる万全の態勢で対応にあたってきた」とした。
■ツイッターに写真、批判広げる
初動への批判を広げたのは、政府高官のふるまいだ。
東京・赤坂の衆院議員宿舎で5日夜に開かれた自民党国会議員の懇親会「赤坂自民亭」。首相や小野寺五典防衛相ら40人以上が顔をそろえた酒席だ。
終了後、西村康稔官房副長官(衆院兵庫9区)は自身のツイッターにグラスを片手に笑顔を見せる集合写真を添え、約1時間40分後には大雨について投稿。秘書からの情報をもとに、地元の雨は「山を越えた」と書き込んだ。
ネットは炎上した。
西村氏は、被害情報や救助活動についての報告を随時受ける立場。2014年8月の広島土砂災害では、内閣府副大臣として現地対策本部長を務め、その経験を著書「命を守る防災・危機管理」にまとめている。
自衛隊を指揮する小野寺氏は13日の閣議後会見で「乾杯はしたが支障はなかった」と強調した。
西村氏は7日にも物議を醸す。「自衛隊員約2万1千名が人命救助など活動中」とツイートしたが、実際には待機態勢だった。
西村氏は写真投稿について陳謝したが、政府・与党からも苦言が相次ぐ。小此木氏は13日の会見で「被災者が見たら面白くない話。政治家としては気を引き締める部分だ」と指摘。公明党の山口那津男代表は同日、岡山県内の被災現場を視察した後、「生きるか死ぬかというところで大勢の人があえぐ状況が6日から出たが、前兆は5日からあった」と指摘。「軽率な対応ではなかったかと思う」と述べた。(岡本智、山岸玲、藤原慎一)
■豪雨被害と政府の動き(7月5〜8日)
7月5日(木)
<11:00過ぎ> 菅義偉官房長官が定例記者会見で、九州北部豪雨から1年となったことについての質問に「本日も全国的な大雨で警戒が必要な時期が続くことから、先手先手で対策を打っていきたい」
<13:20> 京都市右京区で約2800人に避難指示。午後10時までに京都、大阪、兵庫3府県の約11万人に避難指示。各地で避難勧告も相次ぐ
<14:00> 気象庁が記者会見で「記録的な大雨」の恐れがあるとして「厳重な警戒」呼びかけ
<15:30> 内閣府で関係省庁の課長級による災害警戒会議。小此木八郎防災相が出席
<16:00過ぎ> 菅官房長官が記者会見で、記者の質問に答える形で大雨への警戒呼びかけ
<20:28〜21:19> 安倍晋三首相が自民党国会議員の懇親会「赤坂自民亭」に出席。小野寺五典防衛相、上川陽子法相、西村康稔官房副長官、自民党の岸田文雄政調会長、竹下亘総務会長らも
<22:02> 西村副長官が自身のツイッターに赤坂自民亭の写真3枚とともに「和気あいあいの中、若手議員も気さくな写真を取り放題!正に自由民主党党」(ママ)などと投稿。同日深夜からネット上で「ずいぶん呑気(のんき)ですね」「信じられない」などの批判=右の写真
<22:58> 赤坂自民亭出席者の片山さつき参院議員が自身のツイッターに写真4枚とともに「安倍総理初のご参加で大変な盛り上がり!」などと投稿。ネット上では「いくら定期的な懇談会だとしても、常識的にこれから雨が酷(ひど)くなる予報の中でのお酒は考えられません」などの声
<23:45> 西村副長官がツイートで大雨に初めて言及。「地元秘書から、地元明石淡路の雨は、山を越えたとの報告を受けました。秘書、秘書官と随時連絡を取り合いながらの会でした」と投稿。ネット上で「同じ時刻に関西では、アラームが鳴りっぱなしで滝のような雨でした。秘書からどんな報告受けてたんですか?」などの批判
6日(金)
<01:10> 京都府が災害派遣要請(以下、要請に応じて自衛隊が出動)
<朝までに> 首相の7、8両日の鹿児島・宮崎訪問の取りやめ決定
<午前> オウム真理教元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚の死刑執行。6人の元幹部も同日執行
<09:56> 福岡県が災害派遣要請
<10:30> 気象庁が記者会見で「大雨特別警報を発表する可能性がある」として厳重な警戒呼びかけ
<13:58> 首相官邸の危機管理センターに「官邸連絡室」設置
<14:30> 内閣府で関係省庁災害対策会議
<17:10> 福岡、佐賀、長崎の3県に大雨特別警報。同日中に他の5府県にも同警報。同警報が出たのは計11府県。死者、行方不明者が相次ぐ
7日(土)
<10:00> 首相、官房長官らが出席し、大雨に関する関係閣僚会議
<10:20> 「官邸連絡室」を「官邸対策室」に改組
<10:52> 西村副長官が自身のツイッターに「現在、自衛隊員約21,000名が人命救助など活動中」と投稿。ネット上に「(待機中で)活動していないものをあたかも活動したと喧伝(けんでん)するのは悪質」などの批判
<10:58> 小野寺防衛相が「62カ所の自治体に連絡員約100名を派遣。中部・西部方面隊員約650名が被災地で活動。約2万1千人が待機態勢」と発表
<11:00過ぎ> 菅官房長官が臨時記者会見。「死者4名、心肺停止6名、行方不明2名」
<午前までに> 菅官房長官が8日の和歌山訪問の取りやめ決定
<午後> 首相、東京・富ケ谷の自宅で過ごす
<夜までに> 首相周辺が11〜18日の首相外遊取りやめの可能性を海外関係者に打診
8日(日)
<08:00> 各省庁の局長級が集まる非常災害対策本部(本部長=小此木防災相)を設置
<09:02> 首相、官房長官らが出席し、非常災害対策本部会議
<09:30ごろ> 菅官房長官が臨時記者会見。「死者48名、心肺停止28名、行方不明7名」
<09:48> 首相、日米韓外相会談で来日中のポンペオ米国務長官と会談
<10:40> 小野寺防衛相が「本日も約2300名の隊員が救助活動等を実施。約2万1千名の隊員が救助に加え、今後の給水など生活支援要請への即応態勢をとっている」と発表
<13:00> 首相、康京和(カン・ギョンファ)・韓国外相と会談
<14:29> 首相、自宅