「膨らむ憎悪、あおり続けたトランプ氏 米国でまた銃乱射」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年10月28日22時37分)から。

 11月6日の米中間選挙を目前に、また憎悪をむき出しにした事件が起きた。ペンシルベニア州ピッツバーグ市のシナゴーグユダヤ教の礼拝所)で27日に起きた銃乱射事件では、11人が死亡。トランプ大統領が増幅させてきた「分断」「憎悪」が暴力につながる異常な連鎖が相次いでいる。

 事件は、礼拝所で赤ちゃんの命名式が行われている最中に起きた。半自動ライフルと短銃を手に押し入った犯人は「すべてのユダヤ人は死ななければならない」などと叫び、約20分間にわたって銃を乱射した。

 捜査当局と銃撃戦の末、拘束されたのは同市に住むロバート・バウアーズ容疑者(46)。犯行前、本人のものとされるSNSに「ユダヤ人の難民支援グループは、我々の仲間を殺す侵略者を(米国に)連れてくることが好きだ。私の人々(マイ・ピープル)が虐殺されるのを傍観はできない」と反移民と反ユダヤを結びつけ、「攻撃に入る」と書き残していた。

 ほかにも「ユダヤ人はサタン(悪魔)の子供だ」などと反ユダヤをむき出しにした書き込みを繰り返していた。「米国のユダヤ社会を狙った最もひどい攻撃の一つ」(米メディア)とされ、特定のグループを攻撃するテロ行為ともいえる。

 米国では中間選挙が目前に迫った26日、トランプ氏を熱狂的に支持するフロリダ州の男(56)が、オバマ前大統領やヒラリー・クリントン国務長官ら、トランプ氏に批判的な政治家やメディアに爆発物を送りつけたとして逮捕された。

 党派や宗教、人種などが異なることを受け入れないヘイトクライム憎悪犯罪)が、中間選挙前に立て続けに起きる異常事態だ。

 ユダヤ教礼拝所の襲撃後、トランプ氏の反応は早かった。「反ユダヤの邪悪な攻撃は、人類に対するものだ。我々は憎しみに打ち勝つため団結しなければならない」。こうツイッターで訴え、インディアナ州での選挙演説でも「すべての宗教や人種への憎悪や偏見があってはならない」と主張した。

 長女のイバンカ氏と夫のクシュナー氏がユダヤ教徒であり、トランプ氏はイスラエル寄りの政策を進めてきた。「こうした犯罪は迅速に裁かれるべきで、死刑のケースだ」と語るなど、従来の銃撃事件時にはない厳しい姿勢が際立った。
事件は「米国の恥」

 しかし、一昨年の大統領選から有権者に「対立」や「憎悪」をあおってきたのが、トランプ氏だった。民主党や自身に批判的なメディアを「敵」とみなし、集会に現れた抗議者には「たたきのめしてしまえ」と威嚇してきた。イスラム教徒の入国を制限し、中南米からの移民を「犯罪者」と呼んで排除しようとしたのもトランプ氏だった。

 襲撃された礼拝所近くの住民が一様に口にしたのが、米国が分断していることへの危機感だった。

 「トランプ氏が人々の恐怖や憎しみを駆り立てている。今の政治状況が過激な行動を誘発している」。地方公務員のエバン・ゴーニックさん(28)は小雨が降る中、傘も差さずに現場に花束を手向けに来た。

 自身はユダヤ系ではないが、友人がたくさんいる。目に涙を浮かべ、声を震わせながら「事件は悲劇であり、米国の恥。容疑者が反トランプか、親トランプかなど関係ない。トランプ氏がこのような行動を活気づかせている」と言った。

 礼拝所近くでは27日夜、ろうそくを手にした住民ら千人近くが追悼集会に集まった。元裁判官のトニー・ウェティックさん(80)は「トランプ氏は、人種差別主義者にドアを開けた」。そしてアフリカ系イスラム教徒のタミー・トンプソンさん(48)はこう語った。「人種差別、反ユダヤ主義は新しいことではない。奥底に隠れていたものをトランプ氏が呼び覚まし、差別主義者をより大胆にした」(ピッツバーグ=杉山正、金成隆一)