「(私は○○人:11)オキナワン、海越え芽生えた自我」

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以下、朝日新聞デジタル版(2020/1/11 5:00)から。

 英ロンドン、大英博物館にほど近い文教地区。ロンドン大に留学している比嘉華奈子さん(23)は今、学士論文の準備で毎日のように図書館に通う日々だ。題名は、もう決めてある。

 《沖縄には、どれほど主権があるのか》

 沖縄県浦添市出身。転機の一つは高校1年のころ。友達と遊んだ帰り道、突然、車が横付けし、ドアが開いた。「車に乗れ!」。中にいた米兵数人が大声で叫んだ。「連れ去られる」。強い恐怖を感じた直後、米軍関係者の別の車が通りかかり、米兵らを制止した。間一髪だった、と今でも思う。それ以来考えるようになった。「なぜ沖縄に米軍基地が集中しているのか」

 英国の大学には多様なルーツの学生が集まる。かつて琉球王国だった沖縄が日本に併合された歴史を話すと、共感してくれる学生が多くいた。

 ウェールズ出身の友人は、英国の同化政策ウェールズ語を話すと「Welsh not(ウェールズ語禁止)」と書かれた木札を首にかけられた歴史を教えてくれた。フランスにも同じ「方言札」が存在し、それを明治政府が沖縄などでの日本語教育で模倣したらしいとわかった。

 「中央政府がマージナル(周辺)の人びとを同化させる手口は一緒なんだ」

 英スコットランドやスペイン・カタルーニャ独立運動も学んだ。昨年、米軍普天間飛行場辺野古移設をめぐって7割超が反対した沖縄の県民投票と重なった。

 留学当初は「アイム ジャパニーズ」と自己紹介していた。今も日本人意識は「当然ある」。だが、最近はこっちが気に入っている。「アイム オキナワン(沖縄人)」

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 沖縄県西原町の與儀(よぎ)幸太郎さん(25)は「もう僕は沖縄人としての意識しかないですね」と話す。

 普天間高校を卒業後、曽祖父の世代が戦前に移住したハワイに留学した。沖縄から多くの移民が渡った地だ。留学1年目のころ、スーパーのレジ待ち中に、日系人の男性から英語で出身を尋ねられた。「日本人です。沖縄から来ました」。そう答えると、男性は言った。「君は日本人じゃない。オキナワンだよ」

 沖縄からの移民や子孫はオキナワンの意識を強く持つ。上手に三線(さんしん)を弾き、エイサーを踊る。「負けてられないな」。沖縄人としての意識がふくらんだ。

 進んだハワイ大で、言語学者の話に驚いた。英語教育で淘汰(とうた)されていたハワイ語の言語復興が1970年代に始まり、今ではハワイ語で授業を行う学校もあるという。與儀さんは自問自答した。「僕はなぜ自分を日本人だと思っていた?」「日本語教育が理由じゃないか」

 言語学を専攻し、沖縄で話者が減っている「しまくとぅば(島言葉)」の復興を目標にすえた。帰郷後は島言葉の講座に通い、意識的に使うことから始めている。

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 「今の若者世代に本土への劣等感はない」

 琉球新報政治部長で「沖縄の自己決定権」(高文研)の著書がある新垣毅さん(48)は言う。本土復帰後、80年代までは沖縄の人々には「日本国民になれない二等国民」という意識が根強かった。「エイサーを踊れば、年配者が『恥ずかしい』と制止した」ほどだったという。当時の西銘順治(にしめじゅんじ)・沖縄県知事(故人)は、こうした心情を「ヤマトンチュー(日本人)になりたくてなりきれない心」と表現した。

 だが90~2000年代に状況は変わる。歌手の安室奈美恵さんやSPEEDの活躍、沖縄が舞台のドラマなどでブームが到来。沖縄出身であることを肯定的に捉える人が増えた。「日本に復帰して47年余りが過ぎたが、沖縄人意識はむしろ強まっている」

 18年に亡くなった翁長雄志・前沖縄県知事は沖縄の結束のためにこう訴えた。

 「イデオロギーよりアイデンティティー」

 沖縄人であるという意識が地域や世代を超え、人々を結びつけている。(伊藤喜之)

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 私は何者か。多様化する私たちの世界で、この問いがますます身近になりつつあります。私は○○人――。あなたはこの「○○」に、どんな言葉を入れますか。=おわり

 ■顧みられぬ民意、募る不満

 1429年から続いた琉球王国は、1879(明治12)年に武力を背景にした明治政府によって解体され、沖縄県として日本に組み入れられた。日本の学校教育で「琉球処分」と教わるこの出来事を、沖縄の新聞などは近年、「琉球併合」と書き換えている。「処分」は日本側の視点のため、沖縄側から主体的に歴史を見直そうという動きだ。

 琉球新報の2015年の世論調査では、県民の87.8%が、沖縄のことを自ら決める「自己決定権」の拡大を求めた。16年の調査では、日本の県の一つという現状に対し、「自治州」や「連邦制」、あるいは「独立」を希望する人が計34.5%に上っている。

 戦後の本土復帰から47年を経ても、沖縄には日本全体の米軍専用施設のうち約7割が集中。米軍機オスプレイの強行配備や米軍普天間飛行場辺野古移設など、民意が顧みられない状況への不満が高まっている。