「長野の山頂で会った小学生 初心者も楽しめる冬山って?」

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以下、朝日新聞デジタル版(2020/1/27 9:00)から。

 長野県には、北アルプスや八ケ岳など全国的に人気を集める山が数多くあります。しかし、これらの高峰の冬山登山は、経験や装備など初心者向きではありません。それでも、山を選べば、初心者が日帰りで楽しめるケースもあります。今年最初のコラムでは、経験の浅い登山者が、冬山を安全に楽しむポイントをご紹介します。

 今回登ったのは、長野市中心部からも間近に望める飯縄山(標高1917メートル)です。危険な岩場がほとんどなく、登山道はよく整備されています。1月下旬、山仲間2人と厳冬期の冬山登山を体験しました。

 飯縄山は、長野県と新潟県境に位置する「妙高戸隠連山国立公園」にそびえています。特に、長野県北部から見える飯縄山をはじめ、戸隠山黒姫山斑尾山妙高山の5座は「北信五岳」と呼ばれ、地元の人々に親しまれています。また、この中で飯縄山戸隠山妙高山はかつて山岳宗教の聖地でした。豊かな自然だけでなく、歴史をしのぶ登山を楽しむことができます。

 今回、同行してくれたのは、朝日新聞東京本社総合プロデュース室の高橋万見子さん、朝日新聞新潟総局の高木真也記者です。2人とも社会人山岳会に所属し、冬山登山も精力的に続けています。

 冬山登山では、アイゼンやピッケルなどの装備が必要で雪のルートを歩く経験も必要です。私は、無雪期の飯縄山を登ったことはありますが、冬は初めてなので初心者の方を連れて行くのは不安がありました。2人は飯縄山に登るのは初めてですが、冬山での技術や経験を考慮して同行をお願いしました。

 登山口は、長野市中心部から車で約30分。午前9時に登山口に到着すると、10台ほどの駐車場はほぼ満車で、地元ナンバーの車が目立ちました。天気は快晴で絶好の登山日和です。

 今冬、長野県は暖冬が続いています。登山口周辺も雪が少なく、アイゼンをつけず登り始めました。入山前に、積雪期に飯縄山に登山した山仲間に確認したところ、上部のつづら折りが始まる「駒つなぎの場」から、雪が積もった斜面を登るルートになり、夏ルートのつづら折りは使わないとのことでした。

 しかし、夏山ルートの分岐に着いても雪が少なく、冬のルートはクマザサのやぶが雪に埋まっておらず、夏ルートのつづら折りを登ることにしました。それでも、登山道の傾斜は急になり、ここからアイゼンを装着しました。

 誤算だったのは、暖冬で気温が高く、春山のように汗をかくことでした。実際、2千メートル近い山頂でも、ザックに着けた温度計は2度を示していました。冬山とは思えない暖かさです。

 頂上に続く稜線(りょうせん)に出ても風がほとんどなく、暑さを感じます。冬山の場合、低温や強風で低体温症対策が必要です。しかし、本来は厳冬期なのに、暑さと汗でサングラスが曇るなど想定外の状況でした。同行した2人には「水分補給をしてください。暑ければ、衣類を減らすなどしてください」と指示しました。

 また、冬でも日帰り登山者が多く、雪面にはしっかりしたトレース(踏み跡)が着いており、深い雪を歩くためのスノーシューは必要ありませんでした。山頂までアイゼンだけで対応できました。しかし、分岐から山頂へのルートは急な登りのため、アイゼンがなければ滑落の恐れがあり、夏山とは違った心構えが必要です。

 飯縄山は、飯縄神社のある標高1909メートルのピークと、ここから北東に緩やかに続く稜線を登った先にある1917メートルの山頂が続く双耳峰です。稜線は、ふかふかの雪で、踏み固められたトレースの横をスノーシューを履いたグループが楽しそうに下山していくのにすれ違いました。

 山頂では、親子3人連れに会いました。昨春、飯縄山のふもとに東京から移住した馬場大輔さん(47)、妻の文子さん(44)、長女のななみちゃん(7)です。

 小学1年のななみちゃんは、初の冬山登山ですが、トレイルランニングが趣味で何度も飯縄山を登っている大輔さんのガイドで登頂を果たしました。本人は「苦しかったけど、登れてよかった」とうれしそうでした。安全に配慮し、好天に恵まれれば、小学生でも登頂が可能な山だと感じました。

 山頂からは、雲海の向こうに白馬岳や鹿島槍ケ岳など北アルプスの名峰が姿を見せてくれました。同行してくれた高橋さんと高木記者は、「気温が高く、まるで春山だったけど無事に登頂できて満足です」と喜びました。

 高橋さんは東京から始発の北陸新幹線長野市まで来て、日帰り登山ができました。長野県には、飯縄山のほか2千メートル前後で冬山初心者向けの名峰があります。万全の準備と経験者の同行があれば、冬山登山の楽しみが広がります。(近藤幸夫)