「批判を気にした与党、唐突な10万円給付案 官邸が当惑」

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以下、朝日新聞デジタル版(2020/4/15 23:16)から。

 自民党二階俊博幹事長と公明党山口那津男代表が足並みをそろえて政府に新たな現金給付の実施を求めた。対象を絞った30万円給付が国民の不評を買っており、与党が政府を突き上げた形だ。政府は補正予算成立後に対応を検討する方針だが、給付時期や所得制限の有無など課題も多い。

 一律の現金給付は、もともと与党からの要請が強かった案だったが、政府は慎重だった。首相としてリーマン・ショックの対応に当たった麻生太郎財務相は、経済対策として実施した「定額給付金」(1人あたり1万2千~2万円)を例に、一律給付は貯金に回るだけで効果がないと反対していた。

 政府内には「お金持ちにまで支給する必要はない」(政府高官)との指摘もあり、最終的に「薄く広く配るより、本当に困っている人に手厚く配る方が大事だ」(財務省幹部)として、減収後の月収が一定の条件を満たした人の世帯を対象に現金30万円を給付することになった。

与党からも不満噴出
 だが評判は散々だった。対象範囲が狭く、制度が複雑なため、野党だけでなく、自公の若手・中堅議員からも「不十分だ」と不満が噴出した。二階氏や山口氏の発言はそうした不満を反映している。

 現時点では、政府は1次補正予算の成立を待って追加の現金給付の検討に入る方針だが、課題は少なくない。所得制限がなく高額所得者も支給の対象になれば、「バラマキ」との批判は避けられない。官邸幹部は「みんなにばらまくというわけにはいかないだろう」と話す。

 財源の問題もある。補正予算案では緊急経済対策の財源として建設国債赤字国債を計16・8兆円追加で発行。所得制限次第だが、一律で10万円を給付しようとすれば十数兆円が必要となる見込みだ。赤字国債でまかなうとしても、すでに巨額の借金がのしかかる国の財政がさらに悪化することは避けられない。

 手元に届くまでの期間も見通せない。安倍首相は緊急経済対策を決定した7日の民放の番組で、一律の現金給付を見送った理由を「国民に10万円ずつとの案もあった。これだと(給付に)3カ月かかる」と説明。一度は見送った案を実施することになれば、首相の政策判断の甘さも指摘されることにもなりそうだ。(岡村夏樹、木村和規)

 新型コロナ感染症に対する追加経済対策で、与党から「1人10万円の給付」を求める案が急浮上した。背景にあるのは今月初めに政府が発表した対策への世論の不満や批判だ。公明党は、近く国会に提出される補正予算案を組み替え、追加対策を盛り込むことも求めている。

 10万円給付案は、来週に補正予算案の国会審議入りを控える異例のタイミングで与党が突きつけた。官邸幹部から「なぜこの時期なのか。予算の仕組みを知らないのか」と当惑の声が上がるほどの唐突さだった。

懸念される給付時期の遅れ
 口火を切ったのが自民党二階俊博幹事長だった。14日、党本部で記者団に「速やかに実行に移すよう政府に強力に申し入れる」と、所得制限を設けた上での給付を求める考えを表明。さらに公明党山口那津男代表は15日、安倍晋三首相に所得制限を設けない「1人10万円」の実現を直談判。記者団に「国民が先が見通せず困っている状況に励ましと連帯のメッセージをしっかりと伝えるべきだ」と語った。

 直近の報道各社の世論調査では、内閣支持率が軒並み落ち込んだ。所得制限を設ける政府の対策への評価は割れ、対策の規模そのものが不十分との声も多い。

 自民党からは、政府が目玉に据える「1世帯30万円」の現金給付が先に公表された直後から「実際にもらえる人は少ない」との異論が相次ぎ、「足りなければ次の経済対策も考えていく必要がある」(鈴木俊一総務会長)との注文が出ていた。

 元々「1人10万円」の給付を求めていた公明党でも、先の経済対策の発表後に中堅・若手らが「国民全員に一律現金給付が王道」(岡本三成衆院議員)と公然と異論を突きつけた。14日の両党の幹事長、国会対策委員長の会談では、公明党側が世論の批判を懸念し、「政権はこのままで大丈夫か」との危機感を伝えたという。

 15日午後、両党の幹事長、政調会長らが夜まで断続的に協議を行った。公明側は、10万円を速やかに給付するため、今回の補正予算案に組み入れるよう要求。自民側は難色を示し協議は持ち越しとなった。

 政府・与党はこれまで大型連休前の予算案成立を見込んでいたが、予算案を組み替えれば遅れは必至だ。協議後、自民の岸田文雄政調会長は記者団に「平行線。引き続き補正予算の準備を進める」と述べるにとどめた。(大久保貴裕)