以下、朝日新聞デジタル版(2020年4月24日 6時00分)から。
新型コロナウイルスの感染拡大で暮らしや経済活動への影響が深刻になる中、政府が4月の月例経済報告で、景気の「急速な悪化」を認めた。コロナショック前の強気の姿勢は消え、政府は危機対応にかじを切っている。巨額の経済対策で政策を総動員しているものの、景気がいつ底を打つかは、感染の収束次第。当面は「視界ゼロ」での経済運営が続きそうだ。
景気判断「急速に悪化」 リーマン後以来の「悪化」表現
「急速に悪化」「極めて厳しい」。4月の月例経済報告では、かつて経済危機の時に使われた深刻な表現が並んだ。西村康稔経済再生相は記者会見で、「原因は新型コロナウイルス感染症、この一言に尽きる」と強調した。
月例報告は政府の経済のかじ取りの土台となる。政権の金看板である「アベノミクス」の評価にもかかわり、昨年春以降、景気後退の可能性を示す指標が出ても、政府は「景気は緩やかに回復している」との認識を2月まで維持してきた。
ところが、コロナショックで楽観論は吹き飛んだ。2月下旬以降、国内で外出自粛や営業休止が広がると、経済指標は軒並み悪化。月例報告の判断も2カ月連続の引き下げを余儀なくされた。今回、下方修正した個別項目は個人消費や生産など六つにのぼった。
落ち込みが特に激しいのは、内需の柱である個人消費や景況感にかかわる分野だ。飲食店やサービス業では客足が急減し、3月の景気ウォッチャー調査で、「街角の景況感」の指数は過去最低の水準となった。
外需も厳しい。失業者が急増している米国では3月の自動車販売が前年より4割近く減った。欧州や中国も同じ傾向だ。そのあおりで、日本の自動車大手各社は国内生産の一時停止に追い込まれた。電機や鉄鋼など他の製造業でも生産調整の動きが相次ぐ。
さらに今月中旬には緊急事態宣言の対象が全国に広がった。「短期的には大変厳しい状況になる」(西村氏)とみられ、経済への下押し圧力は強まる一方だ。
民間エコノミストからは、国内総生産(GDP)が4~6月期まで3四半期連続でマイナス成長に陥るとの予測が相次ぐ。政府が「戦後最長」と強調してきた景気拡大はすでに終わったとの見方が大勢で、今後、内閣府が専門家会議の分析を経て「後退入り」を認定するのは、避けがたい情勢だ。
経済対策膨張、岐路迎えたアベノミクス
内需と外需がほぼ総崩れとなり、景気の牽引(けんいん)役が見当たらない中で、政権は焦燥感を強めている。今回の月例報告では緊急経済対策の速やかな実行をうたい、「雇用・事業・生活を守り抜く」と強調した。
経済対策の事業規模は、今月7日に閣議決定した時点で過去最大の108兆円にのぼったが、その後、一律10万円の支給が加わり、総額117兆円に膨らんだ。「緊急事態宣言を発してから、広範な深い影響が社会経済に及んでいる。先が見通せず困っている状況に励ましと連帯のメッセージをしっかりと伝えるべきだ」(公明党の山口那津男代表)といった与党内の声に押され、見直しを迫られたためだ。
事業規模はGDPの約2割に達し、政府は当初計画した対策だけでGDPを最大で年率3・8%分押し上げると試算する。ただ、国際通貨基金(IMF)の予測では、2020年の日本の成長率は5・2%減に落ち込む見通しだ。与野党からは早くも、飲食店向けの家賃支援策など「次の一手」を求める声が出ている。
経済対策は、困窮する人や事業者を支援しつつ、危機が収束したら大胆な消費喚起策で景気を「V字回復」させる二段構え。ただ、新型コロナの特効薬がない現状では収束の時期は見通せず、後で感染が再拡大するリスクも残る。政府のシナリオ通りに改善が進むか不透明なのが実情だ。
ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストは「アベノミクスの前提は景気回復が続くことだった。その枠組みが崩壊し、政権も岐路を迎えている」と指摘。その上で、「今回の危機は従来型の不況対策では間に合わない。生活や事業が成り立つための継続的な支援策を打ち出すなど、危機モードの対策を先回りで進めるべきだ」と話す。(山本知弘)