以下、朝日新聞デジタル版(2020/11/21 22:26)から。
菅義偉首相は21日、肝いり政策「Go To キャンペーン」の見直しを表明した。新型コロナウイルスの感染拡大に危機感を募らせた専門家の提言に押され、判断した。人の動きは、行楽シーズンの3連休で活発化する。政府は感染が広がる自治体と連携し、右肩上がりの感染者数を早期に抑えることができるのか。
官房長官時代に前倒し実施を決めるなど、首相自ら旗を振ってきた観光支援策「Go To トラベル」。首相は21日の新型コロナの対策本部で、感染が広がる地域への旅行で運用を一部見直す考えを示した。「(政府の分科会の)提言を踏まえ、これまでの知見に基づく効果的な対策を迅速に実行する」と語った。
9月に菅政権が発足してから、休日に対策本部を開くのは初めて。今月16日の対策本部で、休業要請を行う自治体への交付金拠出を表明したばかりだったが、さらなる対応を迫られた。
「トラベル」を含む「Go To キャンペーン」で経済回復をめざしてきた政府は、事業の見直しに一貫して慎重だった。重い腰を上げさせたのは、20日の専門家による分科会の「提言」だった。「ここまでくると人々の行動変容だけでは感染を下火にできない」。分科会の尾身茂会長は20日の会見で感染の急拡大に危機感を示し、「政府の英断を心からお願いしたい」などと運用見直しを強く求めた。
尾身氏は「感染拡大は色々な要素で影響を受けるが、その一つが間違いなく人の動き」とも指摘。会食時のマスク着用や人との距離の確保といった様々な感染対策を求めている中で「『Go To キャンペーン』で人が動くということを続けてしまうと、メッセージの一貫性がなくなる」と訴えた。
背景にあったのは医療崩壊への危機感だ。
「ある患者の気管挿管が終わると、すぐ次の患者を処置する状況だ」。20日の分科会の前、逼迫(ひっぱく)した医療現場の実態が次々と寄せられた。あるメンバーは同日朝、コロナ対応を担当する西村康稔経済再生相に分科会としての危機感を伝達。だが、首相官邸側に「Go To」に手を付けるなど対策強化に動く様子はうかがえなかったという。
ここで感染拡大を抑え込まねば、来夏の東京五輪・パラリンピックの開催にも影響が出かねない。経済への打撃も深刻になるだろう――。業を煮やしたメンバーは、首相が最重視する東京大会へのそんな見方を伝えた。
分科会からの強いメッセージを受け、政府は20日夜から急きょ対応に動いた。官邸幹部は「あれだけ専門家から言われたら無視できない」と話す。
とはいえ、経済重視の政権の姿勢が大きく変わったわけではない。政府はこれまで、感染拡大の要因は会食などマスクを外す場での行動であり、人の移動ではないと繰り返してきた。首相周辺は「Go Toを見直すかどうかは知事の判断。国として事業を止めるわけではない」と述べ、従来の主張と齟齬(そご)はないと説明。「Go Toの失敗」と追及されないよう予防線を張った。
政府対応の場当たり感も否めない。政府が見直し方針を打ち出したのは3連休の初日だ。行楽地はすでに観光客でにぎわう。「Go To」見直しの具体的な制度設計もこれからで、いつからどのような効果が期待できるかは不透明だ。
対策本部後、首相は記者団に「Go To」を一時停止すると重ねて説明。ただ、「タイミングは遅くなかったのか」「一時停止はいつから始まるのか」などと問われても答えることはなく、すぐに背を向けその場を後にした。(土肥修一、中田絢子)
都道府県の受け止めは
感染が拡大している都道府県は菅首相の「Go To」キャンペーンの見直しをどう受け止めたのか。
(後略)(土肥修一、中田絢子 松浦祐子)