「スマホにさよなら、受験に集中 「東大王」鈴木光さん」

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以下、朝日新聞デジタル版(2021/1/10 11:00)から。

年が明け、いよいよ受験シーズンを迎えました。16日には大学入学共通テストが始まります。各界で活躍する受験経験者や、さまざまな分野で学びを深めている現役大学生・大学院生たちからの、受験生へのメッセージを随時お届けします。

 高校1年の時に、弁護士の方にお会いする機会がありました。その方が条約の制定や食品の輸出入に携わっておられる話を聞き、海外や私たちの身近な食卓の安全につながる仕事に憧れ、弁護士になりたいと思いました。そして、法学を学ぶ上で、立法の過程に携わっている先生が多く在籍し、多様な分野を取り扱っている東京大学が一番いいなと思い、東京大学一般入試と推薦入試の両方にチャレンジすることにしました。

 推薦入学は、東京大学で導入されてまだ2年目の新しい制度でしたが、論文や面接の準備など、推薦入試に割かないといけない時間は想定以上に大きかったです。まわりの受験生と比べ、一般入試に割ける時間が減ってしまうことへの危機感が、受験直前期に襲ってきて不安と焦りの日々でした。

 でも、そこはある程度割り切って、面接の直前期は面接に、面接が終わったらセンター試験センター試験が終わったら2次試験の準備をしてと、気持ちを切り替えていきました。

 論文は自分では書きたいことがわかっているので、つい先入観を持って書いてしまいます。なので、私は両親や学校の先生、友人ら10人ほどに読んでもらい、意見をもらいました。その都度、書き直しをして、納得できるレベルまで書き上げました。

 想定問答を自分で用意して面接に臨みましたが、最後の一問で用意していない質問が来ました。自分が学んだことのない分野だったので軽くパニックに。今ある知識で自分なりに考えたことを話したものの、受からないのではないかと失望し、泣きながら家に帰りました。

 センター試験を受けた後に、推薦入試の結果が出ました。合格発表で自分の番号を見つけた時は本当にうれしかったです。大事なのは、わからないからといって諦めるのではなく、自分が持っている知識でどう考えるのか、その過程を先生方は見ているのかもしれません。

 その粘りは、ペーパーテストでも必要です。一見、全く知らない形の問題だと思っても、自分の手持ちの知識でなんとかなるものだったりします。だから、知っているものに近いのがないか、どうやって自分の守備範囲の中に持っていくかという意識を持って問題に向かうと、慌てにくいかなと思います。

 私は現代文が苦手で、時間を割いても他の教科に比べて伸びが緩やかでした。苦手なら苦手で、他の部分で克服すればいいと思っていました。受験は全体の勝負なので、漢字などしっかり取るべきところは取って、伸びやすいというところに時間を割きました。受験直前の戦略として、伸ばしにくい論述ではなく、体系的に処理して伸ばしやすい古文や漢文に力点を置くのも一つの方法かもしれません。

 苦手なりに、現代文の選択肢は案外、傾向が見えるというのも伝えたいなと思います。選択肢は、過去問の場数を踏む中で、学校の出題の傾向がわかってきます。現代文が苦手という意識があったので、ひたすら国語の過去問をやっていました。そうすると、こういう選択肢は間違いに誘導しやすいとか、ひっかけの仕方とかが感覚的にわかってきます。そこの感覚を調整していくのも、ありなのかなと思います。

LINE画面に「スマホをやめます」
 勉強をする上で、どこで詰まっているかを自分で認識するのが大事だと思います。問題集を解くときには、できなかった時に正の字をつけて、苦手な部分、伸びやすい部分に時間を費やしていくということに気をつけていました。どの部分に自分がたけていて、どの部分を落としているのかを意識して勉強すると効率が良くなるのではないでしょうか。

 受験勉強や司法試験の勉強をする中で、量と質で勉強を捉えるように意識をしていました。私はタイマーで1時間、2時間と設定し、時間を区切って勉強していました。休憩には、お茶を飲んだり、お風呂に入ったり、ぼーっとしたりしていました。受験直前になると、寝る時間を惜しんで勉強したくなると思うのですが、試験は朝早いので、できるだけ7時間程度の睡眠時間は確保するようにしていました。

 やる気がどうしても出ない時ってありますよね。そういう時に父が「やる気はやったら出てくるものだよ」とよく声をかけてくれました。初めはつらいのですが、1分、2分、10分でもいいから、やり始めてみると、勉強時間が増えてくるのではないでしょうか。

 やる気が出ない時は、勉強がしたくない、というより他のことをしたいという気持ちがすごくあると思うんです。私は極端かもしれないのですが、高3の秋にスマホを解約しました。解約前に「スマホをやめます」と書いた画像をLINEの画面にして、いきなり音信不通になったと思われないようにしました。タブレット端末はリサイクルショップで売りました。

 最初はつらかったですが、次第に慣れます。スマホにエネルギーを割かなくていいので、心理的に楽な部分もありました。受験が終わってから、クラスのLINEグループに戻れたので、特に不便なことはありませんでした。

 2年前に始めたインスタグラムには、様々な相談が寄せられます。去年の夏の時点で7万件以上のコメントがありました。子どもが勉強しなくて困る、という声もよく聞きます。選択肢だけは保護者が提示して、お子さんが勉強したくなるまで待つというのも一つの手かなと思います。人に強制されてするものと、自分から進んでするものには、気持ちの面で差がありますよね。

 お互いに信頼関係がないと、お子さんは聞くべきことも聞けなくなっちゃうと思います。自分の考え方を尊重してくれる、自分のためだとわかっているからこそ、お子さんが聞き入れられることも増えてくるのではないでしょうか。一方的に勉強しなさいと言っても、かえって、勉強嫌いになってしまうお子さんもいるかもしれません。

 子どもって生きている時間が短いからどうしても視野が狭いですよね。私自身もそうなんですが、これがベストと思っても目先2~3年のことしか考えられていなかったりします。だから、知恵や経験の豊富な保護者の方が、様々な将来や勉強の仕方などを情報として与えて、最後の決定だけは子どもにさせて欲しいと思うのです。子どもは自分が選んだことだからこそ、責任感を持つし、自分で納得して行動できるようになるのではないでしょうか。

 私の両親は勉強に干渉せず、全て私に委ねてくれました。頭ごなしに何かをやれと言われることは全くありませんでした。他にやりたいことがあるのなら、義務教育の中学だけは卒業しなければならないけれど、その後は自分の生きたいように生きればいいと言われていました。受験前に母からは「最後まで試験を受けただけで偉い。あとは元気に帰ってきてくれたらそれでいいから」って言ってもらい、気が楽になりました。

 私は不注意なところがあるので、受験の準備は前日にすることを心がけました。過去の模試で、筆記用具を忘れて試験会場に行くという苦い経験があったからです。その時は、コンビニで急いで買って間に合いました。その教訓として、なるべく前日に、本番に持って行く持ち物を準備するようにしています。センター試験の時は会場が遠く、指先が冷えてしまったので、これから受験する皆さんはカイロを持っていくことをお勧めします。

 大きな試験の本番って普段通りにやるのが難しいですよね。「本番だからいつも以上に良くやらないと」と気負うので、普段だったら絶対にやらない間違いをしてしまうことがあります。欲を出してここで点数を取らなければと思って、全体の配分を超えた時間をかけてしまうことも。そんな気持ちを抑えて、いつも通りに問題に向かう意識が大事だと思います。

 本番直前のみなさんは、ものすごくプレッシャーがかかり、不安な時期だと思います。みなさんには「今、一生懸命がんばっているだけで偉いんだよ」ということを伝えたいです。受験が全てではないと思う一方で、受験のように一つのことに向かって、ものすごく努力する経験って、人生の中でそう多くはないと思います。

 だからこそ、目標に向かって頑張っているという事実に自信を持ってもらいたいです。後で振り返った時に、今の経験が無駄になることは絶対にないと思うので、頑張っている自分を褒めてあげて、最後までやりきってください。応援しています。(聞き手・阿部朋美)

 すずき・ひかる 1998年東京都生まれ。筑波大付属高校から、東京大学文科Ⅰ類に進学。法学部4年生。2017年からTBSテレビのクイズ番組「東大王」にレギュラー出演。昨年12月、初めての著書「夢を叶えるための勉強法」(KADOKAWA)を出した。