以下、朝日新聞デジタル版(2021/4/2 6:00)から
昨年春の「第1波」の際、厚生労働省クラスター対策班の中心となり、「人との接触の8割削減」を呼びかけた西浦博さん。1年を超えた新型コロナウイルスとの闘いの中で、見えてきた日本社会の課題とは何か。「第4波」の拡大を防ぎ、次のパンデミックに備えるために何をすべきかを聞いた。
1977年生まれ。北海道大学教授を経て京都大教授。専門は感染症疫学。著書に「新型コロナからいのちを守れ!」(川端裕人氏との共著)。
――新型コロナ対策を振り返って、自分たち専門家が適切に行動したと考えますか。
「全体的に適切だったかを評価するにはまだ早いと思いますが、現時点では『イエス・アンド・ノー』です。すべてイエスと言えるだけの環境が与えられなかったし、幾多の失敗も重ねました」
――「環境が与えられなかった」というのは、具体的には?
「一番大きいのは組織の問題です。第1波のとき、厚生労働省のクラスター対策班で仕事をしていたのですが、そこで分析した結果が、政策的な判断を下す官邸に届くまでに、厚い壁のようなものが何枚もありました。科学的な知見を採り入れた政策判断と、官僚制システムがかみ合っていない」
「当時の厚労大臣だった加藤勝信さんには毎日のように会って、かなり厳しいことも言わせてもらっていました。しかし、その後、官邸での会議に専門家の提言が直接出されるわけではないのです。厚労省内で調整して、ようやく事務次官や医系技官のトップの医務技監が官邸に伝える」
――著書「新型コロナからいのちを守れ!」を読むと、西浦さんたち専門家と厚労省や政府との間でかなり摩擦があったようです。
「第1波のときは、いつも会議の前々日くらいから、『嵐』が起きていました。昨年3月19日の専門家会議の前には、それこそ怒号が飛び交うような状態でした。僕は重症者数のシミュレーションをして、このままだと病床が足りなくなるという試算を会議に出したのですが、厚労省側からは『混乱を招く』と大反対された。一方で、会議の直前になって、政府側から『こういう別の対策が入ります』と言ってくる。前日の夜に資料が回覧されるものもあり、専門家の意見を採り入れたり、変えたりできない状態でした」
(後略)
(聞き手 シニアエディター・尾沢智史)