ハミルトンガーデンに春のきざしを探しに行く

ハミルトンガーデンの桜

 ニュージーランドの人口は400万人ぐらいと言われていて、大体みな平屋に住んでいる。家の裏の方に駐車場を持つ家も多く、家の脇に駐車場に通じる道路がある家が多い。当然、家の前の方には木々や花々が咲いていることが少なくない。日本より面積は少し小さいけれど、同じような島国に、静岡県の総人口よりも少し多いくらいの人間しか住んでいないのだから、一軒一軒がゆったりと広いのも当然だ。
 私の家の近くにも何もないパークというものが2つばかりあるのだが、ここは何もない単なるだだっ広い野原である。ただし芝生はきれいに管理されていて、ゴルフができそうだし、日本なら盆踊りにうってつけの会場になる感じだ。看板が立ててあり、車や自転車、ゴルフ、乗馬が禁止とあり、さすがに乗馬は禁止と書かなくてもする者はいないだろうと思っていたら、そのパークの向こうに馬がたくさん放し飼いされていた。
 うかつにも初めて気がついたのだが、馬が放し飼いされている場所は、私の家からほんの少ししか離れていない。さすがに、これではきちんと禁止しておかないといけないわけだ。
 庭の話に戻ると、私が今一人で住んでいるアレックスとジュディの家も、家の前のほうに花壇があり、裏手には家庭菜園がある。前にも書いたように、ジュディが花壇の担当で、アレックスが家庭菜園の担当になっている。
 アレックスから直々に仰せつかったトマトの苗も、前から比べると随分と大きくなってきた。花壇の方はというと、ジュディが植えた庭の花々がかなり咲き出している。花々にとってはもう春が来ているようだ。
 さすがに9月に入ってコートはいらなくなって、ジャケットだけで過ごせるようになってきた。半袖のニュージーランド人も多いのだけれど、さすがに私は半袖にはなれない。ジャケットの下は秋に着るような厚手の茶系のシャツを着ているのだが、たまにセーターが恋しくなり、セーターが手放せない。
 ということで、少し肌寒いのだけれど、春を探しにハミルトンガーデンに行ってみた。家からハミルトンガーデンまでは歩いて20分くらいだ。ちょうどいい散歩コースなのだが、ハミルトンガーデンの前にコブハム道路(Cobham Drive)というひっきりなしに車が通る通称1号線の自動車道路があり、なかなか自動車の通りが切れないから、この横断が非常にやっかいだ。なんでせめて押しボタン信号をつくらないのかと思ってしまう。
 大体、日本人の感じだと、どうしてここに信号がないのというくらい、ニュージーランドには信号がないことが多い。自動車を運転している場合でも、広い道路の十字路に信号がないことが多いから、いつも左右を見ないと危険である。確かに信号をつけてしまうと、必ずそこで自動車は止まることになる。いつかは車の流れは切れて車も歩行者も通れるようになるのだから、なるべく信号はつけないようにというのがニュージーランド流の考え方だ。まさに400万人という人口の成せる技と言えるだろう。それでも混んでいる道路の場合、困るのが私のような歩行者だ。大体このハミルトンガーデンだって、みんな自動車で来るのが普通である。私のように歩いて来る奴は、ほとんどいない。歩行者が、圧倒的に少数派なのである。
 ハミルトンガーデンには、何か特別なものがあるわけではない。ものすごくきれいな場所があるわけでもない。実際、池や川は正直いってあまりきれいではないし、ちょっと中途半端な日本庭園をはじめとして、中国、イギリス、イタリアの庭園と、さらに中途半端なアメリカ合州国の庭園があるくらいだ。これでは、まるでハミルトンの町そのもののイメージだ。けれど、花々は美しく咲いているし、そこそこ広いし、とてもゆったりとできる。ハミルトンはどこでもそうなのだけれど、芝生の管理はきちんとしている。ちょっとしたカフェもあって、お茶もできる。
 そのハミルトンガーデンの桜の木に、ほんの少しだけれど、桜が咲いていた。前にも紹介した斉藤完治さんの「極楽ニュージーランドの暮らし方」(山と渓谷社)によれば、9月から10月にかけて桜が満開になるらしいから、時期はもう少し待たないといけないようだ。
 今はハミルトンガーデンで特に有名なローズガーデンには人っ子一人いない。まだバラの季節ではないから当然だ。11月にバラ見物にたくさんの人が押し寄せるのだろう。ジュディもバラを育てているけれど、今から11月が楽しみだ。