ニュージーランドの二つの公用語

マオリ語と英語で書かれた大学案内板

 大学図書館からインターネットのグーグル*1で、「ニュージーランド公用語」というキーワードで検索をしたら、たまたま「ニュージーランド公用語」(New Zealand's Official Languages)というタイトルの旅行業者のホームページがトップに出てきた。以下掲載して、訳してみる。
 「ニュージーランドの二つの公用語は、英語とマオリ語です。英語はニュージーランド国内で、日々のビジネスに必要な言語で、大英連邦の歴史的影響が感じられます。マオリ語は、ハワイやトンガ、サモアなど、他の太平洋諸島の文化の言語とよく似ているポリネシア文化圏の言語のひとつです。ニュージーランドでは、16万人以上の人たちがマオリ語を話しています。(2001年の調査)」(The two official languages of New Zealand are English and Maori. English is the language of day-to-day business within New Zealand, a remnant of ties to the British Commonwealth. Maori is a Polynesian language similar to the languages of other Pacific Island cultures, such as Hawaiian, Tongan, and Samoan. Over 160,000 people in New Zealand speak Maori (2001 Census).)

 「マオリ語は、最初の移住者たちが南島や北島に来て以来、一貫してニュージーランドとその文化の重要な部分であり続けました。しかしながら、マオリ語がニュージーランド公用語として認められたのは、ほんの少し前、1987年のマオリ語法令(マオリ語法)以来のことなのです。英語とマオリ語の二重言語主義(バイリンガリズム)やマオリ語の発展とその使用の奨励は、マオリ語委員会(Te Taura Whiri i te Reo Maori)によって、すすめられています。(The Maori language has been part of New Zealand and its culture since the first people came to the Islands. However, Maori has only been recognised as an official language of New Zealand since the Maori Language Act of 1987. English-Maori bilingualism and the development and use of the Maori language is encouraged by Te Taura Whiri i te Reo Maori-the Maori Language Commission.)

 「二つの文化がまざりあっている世界の他の地域の状況と同じ様に、マオリ語に対して英語が影響を与え、また英語に対してマオリ語が影響を与えてきています。お互いにたくさんの単語が、語彙として入り込んできているのです。英語が、マオリ語にモーツカー(車)を導入させ、マオリ語からは、タブー(タプ)が英語になりました。
 ニュージーランドにあるたくさんの場所が、二つの名前、すなわち、ひとつは英語で、もう一つはマオリ語の洗礼を受けています。そしてときに、これらの名前はどちらも使われることがあるのです」(As with other regions in the world where two cultures have been mixed, English has influenced Maori and Maori has influenced English. A number of words in each language have crossed in to the vocabulary of the other. English has introduced motuka (car) and Maori has replied with taboo (tapu).
Many places in New Zealand have been christened with two names - one English, one Maori. And, in some cases, these names are used interchangeably.)
http://www.newzealand.worldweb.com/TravelEssentials/Languages/8-732.html

 以上は観光案内的文章だけれど、ニュージーランド公用語について、まさに、「ニュージーランドの二つの公用語」(The two official languages of New Zealand)という表現に示されているように、ニュージーランド公用語は二つある*2のだが、問題は、何故先住民であるマオリのコトバ、マオリ語の公用語化が、1987年というごくごく最近のことなのかという問題である。
 先住民のポリネシアマオリアオテアロアに来たのは、諸説あるけれど、およそ一千年ほど前にタヒチ島周辺のソシエテ諸島、あるいはクック諸島あたりから移ってきたと考えられている。
 あのキャプテンクックのエンデバー号の乗員が最初からマオリ語を解したはずはなく、タヒチから一緒になったポリネシア人のトゥピアが、白人とマオリの間の通訳としての役割を果したというほど、マオリ語はソサエティ諸島の言語と類似性が高いと言われている。トゥピアは、ソシエテ諸島に属するライアテア島の出身と言われているからである。(「ニュージーランド北島日経BP
 ニュージーランドをヨーロッパに最初に紹介したのは、1642年に、タスマニア島を「発見」し、続いてニュージーランド南島の西北海岸に到達したエイブル=タスマン(1603〜1659)と言われている。タスマンは、マオリの攻撃にあって上陸は果せなかったが、オランダ人のタスマンは、オランダ祖国のゼーラン*3ド地方にちなんで、「ノヴァ(新しい)ゼーランド」と名づけたのだ。
 この感覚は、ニューアムステルダム、ニューヨーク、ニューオリーンズなどの名称と同様、どこでも同じような植民地的感覚に他ならない*4。このオランダにちなんだ名称のイギリス語版が、ニュージーランドというわけである。
 先住民であるマオリは、最初の人たちであり、書きコトバを持たなかったとはいえ、ポリネシア系のマオリ語を話していた。アオテアロアでは、そもそも、マオリ語が100%話されていたのである。繰り返しになるが、問題は、先住民のマオリのコトバの公用語化が、なぜ、1987年なのかということである。

*1:Googleは、数あるインターネットのサーチエンジンの中での定番サイト。

*2:前にも紹介しているように、ワイカト大学(The University of Waikato)の構内にある掲示板は全て、マオリ語と英語の二語による併記になっている。ハミルトンの市役所の建物の建物名の掲示や博物館の説明書きもマオリ語と英語の併記になっている。

*3:ゼーランドは、Sea Landの意。

*4:ニューヨークは、イギリスが支配して、新しいヨークという意味で名づけられた。その前はオランダが支配していたから、新しいアムステルダムという名前になっていたわけで、もし仮に日本が植民地を拡大し続けていたとしたら、その支配した町を新東京と名づけるような、こうした感覚は、きわめて帝国主義的で植民地的であり、当然のことながら、いい趣味とはけっして言うことができない。