「ニュージーランド物語」の第2章「マオリ」(その1)を読む

 ニュージーランドが他の土地からかなり離れていたことから、人間が住み始める場所としては、かなり遅い方に属する場所となった。
 ヨーロッパ人が来る前にニュージーランドに来た人間は、ポリネシア人だった。
 ポリネシア人は、そもそもアジア人*1で、4000年前に、西太平洋の地域に入り込んできた。いつ頃、彼らがニュージーランドに来たかは明らかではないが、1000年以上前のことであることは確かだ。
 ポリネシア人は、優秀な航海者であり、探検者であった。長い航海を果たし、遭難したり、偶然に新しい島を発見したりした。ときに新しい住処を探すために、決意して出発したこともあった。
 自分たちの先祖が、タイヌイ(Tainui)とか、テアラワ(Te Arawa)という名のカヌーの船隊で、ニュージーランドにやってきたと言うマオリがいる*2。この「船隊」は、伝説だが、ポリネシア人がカヌーでやってきたというのは、本当だ。ひょっとして、たった一隻のカヌーで、嵐の荒涼たる海という海を越えて、アオテアロア(Aotearoa)とマオリが呼ぶようになった場所にたどり着いたのだろう。
 アオテアロアとは、「長い陽の地」*3(Land of the Long Daylight)という意味だと考えられているが、熱帯地域では、黄昏もないから、ポリネシア人たちは、ニュージーランドにたどり着いたときに、ここの天候に驚いたに違いない*4
 この1000年後に、ヨーロッパ人がマオリに出会う際に、マオリの人口は10万人ほどだったのだが、一隻のカヌーの積荷は、その後のマオリ人口10万人を生み出すに十分だったに違いない。
 このポリネシア人たちは、彼らがハワイキ(Hawaiki)と呼んでいるところから、やって来た。ハワイキとは、東ポリネシアに位置し、おそらく、クック諸島(the Cook Islands)、タヒチ(Tahiti)か、マルケサス諸島(the Marquesas Islands)あたりだったのではないかと思われる。正確なことは、わからないのだが*5
 ポリネシア人は、ネズミと犬を連れてきたが、置き去りにしたか、あるいは、おそらく、船外に失ったか、食べてしまったか、のいずれかであろう。また、豚と、モアと呼んでいた家畜としてのにわとりを持ち込んでいた。
 植物系の食べ物としては、クマラ*6(kumara)や、タロ(the taro)、ヘチマ*7(the gourd)、そしてヤム(the yam)を、彼らは持ち込んだ。
 動物や食物系の食べ物を持ち込んだということは、彼らが遭難した釣り人たちなどではなく、むしろ新しい島々を探し出すために航海に出た人々と、みることができる。
 科学者たちが、彼らの定住した場所や、骨格や歯を調べることによって、この最初のニュージーランド人たちについては、たくさんのことがわかっている。
 たとえば、彼らが定住した初期の頃は、格別にいい食事状態だった。アザラシやクマラ、さらに巨大なモアは、お腹をすかせた人間にとって、たやすい獲物だった。ポリネシア人が、モアや北部地域のアザラシを絶滅させるのに手をかしたということは確かなことだ。発掘した彼らの歯を調べてみると、しばしばその歯は完璧であり、それは柔らかい良質の食べ物が豊富にあったことを意味する。
 のちに、15世紀ごろ、天候が涼しくなり、人口が減少した。食料が不足しがちになり、海岸にはたくさんの魚がいたけれど、どちらかといえば、ピピ(pipi)*8のような、貝の方をより多く食べていた。
 当時、マオリの平均的な体格は、ヨーロッパ人男性よりも大きく、200年前のヨーロッパ人の平均が160センチだったのに対して、マオリの男性は平均で175センチくらいあった。
 ただし、他の「有史以前の」(“prehistoric”)人々と同じように、彼らは短命であった。大きな木の幹やカヌーなどの重い荷物を運んでいたから、背骨を傷めたりしたであろう。薬の知恵はほとんど持ち合わせておらず、マクツ(魔法)*9によって、あるいはタブー(tapu)を犯すことによって、病気になるものだと信じていた。初期のマオリは、ほとんど病気にならなくても、他の昔の人間と同様に、30歳くらいまでしか生きることができなかった。40代、さらにそれ以上生きる人間は、ほとんどいなかった。

*1:原文では、They were a people, originating in Asia, who entered the western Pacific about four thousand years ago.となっている。ただし、現在、このマオリアジア発祥説は、確定的ではなく、遺伝子鑑定では、タヒチ発祥説が有力らしい。まだ議論が続いているので、確定的なことは何も言うことができないが。

*2:タイヌイは、ワイカトに住むマオリ。テアラワは、ロトルアを中心に住むマオリ

*3:よく聞かれるアオテアロアの意味は、「長き白い雲のたなびく地」の方だろうが、以前にも紹介したように、マオリ語のアオが「雲」と「日」の両方を意味し、テアが「白い」「明るい」の両方を意味するところから、アオテアロアは、10個くらいの解釈が成り立つと言われている。この件については、A.W.ReedのIllustrated Māori PLACE NAMEが詳しい。

*4:ニュージーランドの夏の日照時間が長いことは、短期の旅人でもすぐに気がつくことだろう。

*5:ハワイキは、ポリネシア人に共通する想像上の重要な場所。

*6:クマラは、sweet potatoのこと。いわゆるさつまいもをさす。

*7:gourdは、ヒョウタンと訳すべきか。いずれにせよ、ウリ科の食べ物だろう。

*8:マオリの知人・友人にピピは食べたことがあるかと私はこれまで何度も聞かれているが、残念なことにピピはまだ体験していない。ピピは砂の中に入っている貝なので、アサリやシジミの類だと、勝手に私は想像しているのだが。

*9:マクツ(makutu)は、wichcraftで、魔法の意。