ニコラスは只者ではなかった

 実は、彼はフライフィッシングのジュニアのチャンピオンだった。
 にもかかわらずというか、だからというべきか、初心者の私にとても親切に教えてくれた。
 湖と違って渓流でのフライフィッシングは、地形的条件が様々だ。たとえば木々が邪魔になって、初心者には、キャスティングは簡単ではない。
 私などは、魚よりも、木々を釣ることの方が多いくらいだ。だが、ニコラスも結構木々にひっかけている。私のフライフィッシングの師匠は、フライを木々にひっかけることはひっかけるが、ロッドを引っ張れば、不思議と葉っぱが落ちるだけ。フライを木々に取られることはめったになかった。川を上りながら、ムチのようにラインをキャストし、獲物をめがけて、キャスティングを繰り返していた姿を思い出す。
 木々にひっかけるとフライを失うことがある。ニコラスに言わせると、魚にしろ、木々にしろ、フライを無くせば無くすほど、魚は釣れるという。フライを無くすことは、魚を多く取ることの代償のようだ。
 一番目のフライは、少し重りになるような金属性のフライで、二番目のフライは、擬似卵がいいという。
 大きな魚を釣るには、8パウンドくらいのラインが必要だが、昼間は目立つから、6パウンドくらい。ときには2パウンドくらいの細いラインでないとダメだとニコラスは言う。
 インディケーターも、夜は大きなインディケーターで構わないが、昼間は小さな奴でないとダメだと言う。
 ニコラスは魚を見る眼がいい。「あそこに一尾、こちらに一尾。全部で6、いるね」なんて、簡単に言ってのけるが、私には、はっきりと目立つ奴しか見えない。
 一般にフライフィッシングガイドは教えることはしないという。ここで釣れという場所を案内するだけだ。それでも、高いガイド料を請求される。
 フライフィッシングのガイド料が高いことを私は知っているので、なんだかニコラスに申し訳なく思ってしまった。