ナイトサファリのキリンにたしなめられる

 ナイトサファリには、こうしたやかましく騒々しいトラムカーを離れて、自分で歩けるコースがある。
 このコースの暗闇の中に立っていた、別の中国系シンガポール人に、同じようにトラムカーがやかましいと文句を言ったら、この中国系シンガポール人は、私の言い分に対してよくわかりますと同情してくれた。是非アンケートなどに書いて欲しいとまで言う。
 ただし、ここからは静かに回れると思いますからと、とても親切で、私の気持ちにかなった話をしてくれた。この中国系シンガポール人の説明で、私の気分は少し救われた。
 さてお目当てのキリンのところに行くと、キリンは私からは遠いところでくつろいでいた。これは仕方がない。キリンにも都合っていうものがある。
 遠くからの観察でも私は我慢しないといけないと思っていたのだが、どうしたわけか、キリンが私の方に近づいてくる。
 そのキリンは、さらにどんどんと私の方に近づいて、私の周りで英語を話す連中が、”Oh, my God!”と言っているほどの場所に来て、最後は鼻と舌で私に挨拶してくれたのだ。
 それはあたかも、「まぁそう怒らないで」とそのキリンが私に言ってくれたかのようだった。
 そうキリンにたしなめられて、私の怒りはおさまった。
 英語を母語とするまわりの連中が話しているように、そのキリンは大きさからして、十分大人になっていないかのようだ。いわばその十代のキリンは、木々の葉っぱをずっと食べていたのだが、他の英語を母語とする人間に対しても、近づいて、長い鼻と口の間をなでてもらったりしている。
 ナイトサファリでは、フラッシュ撮影は動物を怯えさせるから禁止である。デジタルカメラで写真撮影している人間が少なくないが、誤ってフラッシュをたいた若い女性がいた。他の若い白人女性にもたしなめられていたが、「フラッシュはたかないようにお願いしますね」と、私も釘を刺した。
 こうして、このキリンに私の気持ちは慰められた。あのキリンがいなかったら、私はナイトサファリについて酷評していたことだろう。
 帰り道、売店で確認したら、通常1ドルちょっとのコーラがナイトサファリの売店では4ドルもする。ナイトサファリでは、飲み物持参をお薦めする。
 ナイトサファリであと重要なことは、帰りのバスの時間をチェックするということだ。キリンの挨拶に満たされた私は、早めのバスで帰ることにした。