日本では、学力下位層も、学力上位層もスポイルされている

 けれども、学力問題で私が指摘したいのは、学習指導要領の責任問題と、その結果として、今日の日本の子どもたちは、学力下位層も、学力上位層も、ともにスポイルされているのではないかという点だ。
 最近の中学生の学力実態は、二こぶラクダだと聞いたことがある。
 学力分布が正規分布曲線を描かず、30や40のところにピークのある山と、70や80のところにピークのある山と、ちょうど二こぶラクダのように分布するというのだ。
 これは私なりの乱暴な解釈を加えると、塾に行ったり予備校に行ったりと、経済的に面倒をみてもらえない家庭層が学力下位層であり、塾に行けたり予備校に行けたりと、経済的に面倒をみてもらっている家庭層が学力上位層であり、階層的に日本が二極分解している傾向と関係しているのではないかという気がしてならない。
 大変けしからんことに、勉強は公立学校ではなしに塾でやるなんてことに今はなっているらしいから、学力下位層は面倒をみてもらえず、放置されていることになる。一方、学力上位層は、塾の分析にもとづいて、穴埋め式に代表されるプリント学習などを、無批判的にやらされるから、学校のテストはなんとかできるけれど、実は本当の実力というものがついていない。それで、自分たちは力があると勘違いしている。ある有名私立大学で教えている教授が「最近の学生は、力がないのに、力があると勘違いしている学生が少なくない」と言っていたが、これなどは、日本のトップレベルの大学だからこそ、その有名看板に甘えて、勘違いしていられるのだろう。
 こうしたひどい状況の中で、おそらく本当に力をつけている中学生や高校生たちは、教養も実力もある家庭教師に、3年間くらい、生き方も含めて、勉強目的・勉強方法など、落ち着いてしっかりと教えてもらっていることだろう。本当の実力と自信があれば、今の日本での競争なんて、簡単に勝利できると私は個人的に思っている*1
 ようするに私の言いたいことは、学力下位層も、学力上位層も、いずれも日本の教育環境の中でスポイルされているのではないかということなのだが、皮肉なことに、いま最後に指摘したような教育は、その昔は、公立の学校でもそれなりにやられていたのではないか。
 事実、私なんか、小学校も中学校も高校も公立だったけれど、いい先生方が少なくなかった。いや、ひどい教員もいたことはいたが、「反面教師」という言葉が使われていたように、子どもたちに力があったのだ。私が個人的に英語が好きだったということもあったけれど、私立の塾や家庭教師にお世話になったこともない。けれども、自分なりに、勉強方法は身につけていた。
 今の日本は、公立学校より私立学校の方が高級だというイメージがふりまかれ、公立学校がいじめられているようで、私にとっては憤懣やるかたない。これもたまたまのことだが、私の娘も息子も公立小学校・公立中学校・公立高校出身である。公立学校を不当に過小評価するような風土では、日本の教育は当分よくならないだろう*2

*1:バブル崩壊後の日本はとりわけ自信を失い、競争力がなくなっているのではないだろうか。韓国・中国をはじめ、アジア諸国の方が、競争意識と競争意欲が高いように思われる。

*2:私の勤務校は、私立で、自主自立、自由を重んじる伝統校である。問題は、公立・私立にあるのでは、もちろんないが、公立校を差別するような傾向が強まっていることに対しては警鐘を鳴らさないといけない。