侯孝賢(ホウシャオシエン)監督の「悲情城市」を観た

台湾映画「悲情城市」

 台湾映画の「悲情城市 [DVD]」は、五十一年間にわたる日本による台湾統治が終えた昭和二十年八月十五日から始まり、1945年から1947年までの台湾を描いている。
 「悲情城市 [DVD]」は、1947年に発生した228事件を扱ったことで話題となった。
 228事件*1は、台湾では長い間、明らかにされることはなく、また話題にすること自体がタブー視され、当然にも資料も少ない時代が続いた。
 けれども、1949年にひかれ38年間も続いた戒厳令が1987年にようやく解除され、1988年に蒋経国総統が死去し李登輝副総統が総統になると、台湾にもようやく徹底した言論統制が雪解けをして、民主化・自由化の風が吹き始めた。1988年に撮影が開始され、1989年に完成した「悲情城市 [DVD]」が完成した背景には、こうした台湾の歴史的事情がある。
 これはずっと前のことだが、私は1981年にアメリカ合州国はサンフランシスコに6ヶ月滞在したことがあって、そのとき映画をかなり観たことがある。この中には台湾映画もいくつかまじっていて、このときの台湾映画は、軍艦などの軍事力を背景に、軍人さんを扱った恋愛物ばかりだった。私が観た台湾映画は戒厳令下のものばかりだったから当たり前のことなのだが、これと比較すると「悲情城市 [DVD]」は全く趣の違った映画だ。
 228事件を扱った「悲情城市 [DVD]」は、「独立派」、「統一派」にとっての刺激的でときに過激な話題を提供したことだろうが、映画「悲情城市 [DVD]」は、人間を撮っているということになるのだろう。228事件を扱いながらも、物語は、静かに進行していく。
 香港スターのトニー・レオン台湾語を話せないということも理由のひとつなのだろうが、耳が不自由で、話すことができない写真館の写真屋さんという役柄だった。
 政治的に扱いづらいテーマであるからこそ、声高に叫ぶのではなく、港町基隆(キールン)に住む一家を通じて淡々と描いている。
 「悲情城市 [DVD]」は、1989年にベネチア国際映画祭で、金獅子賞を受賞している。

*1:台湾は台北市に行ったら、228記念公園内の228記念館を訪ねて欲しい。228事件の概要がわかるはずだ。