David Byrneの”Grown Backwards”(2004)

Grown Backwards

 David ByrneGrown Backwards (2004年)は、アオテアロアニュージーランドでよく聞いたアルバムだ。
 アメリカ合州国が象徴する「帝国」(Empire)。9.11後の暴力と混沌の現代社会が、このアルバムに影を落としていることは間違いない。そうした現代に生きる葛藤がここにはある。
 歌われる素材は、日常であり、現代だ。「ガラス、コンクリート、石(Glass, Concrete, and Stone)」。「酒(booze)」「異性(She)」、「セックス(sex)」、「宴会(banquet)」、人生の「必然性」と「偶然性」「運命のいたずら(a simple twist of fate)」。そして、「中東の平和(peace in the Middle East)」。「宇宙飛行士(Astronaut)」。
 アルバムの中の「宇宙飛行士」という曲には、アメリカ合州国の孤独を扱うかのような、無重力感がある。
 「ビールを愛した男(The Man Who Loved Beer)」という歌も、テーマは、「孤立感」「孤独」に違いない。アメリカ合州国の「孤立感」、さらに言えば、私の祖国・日本の「孤立感」と無縁の歌ではないはずだ。
 そして、「この人生の反対側(The Other Side of This Life)」へ私たちが連れて行かされてしまう神経症と幸福観。
 アルバムには、おやというユーモアもあちこちにある。そして、アルバム全体を覆っている形式美は、単純さと深さである。
 Body, soul, fingers, handなど、身体的語彙も多く、肉感的でもある。
 核のまわりをまわる粒子までが、けっして歌がうまいとは言えないデビッド=バーンの癖のある声で歌われる。
 曲と曲、唄と唄とが微妙に絡まりあい、響きあう。ビゼーのフランス語のオペラやイタリア語の歌劇の曲も、場違いな感じがしない。
 “Grown Backwards”は、アルバム全体で味わうべき作品である。無駄な部分を削ぎ落とした凛としたいそぎよさ。モダン建築の中にいるような気分になるモダンな音楽だ。
 ニュージーランドで愛車を運転しながら、よくGrown Backwardsを聞いた。自由自在に変化するアオテアロアニュージーランドのキャンバスのような空に合う音楽だった。

http://www.davidbyrne.com/music/cds/grown_backwards/grown_reviews.php