"darn", "heck"などの、ののしり言葉の婉曲的表現は、最近の傾向ではどういう目的で使うのか

amamu2006-02-17

 「ののしり言葉」(swearwords, curse)というのがある。
 例えば、コール=ポーターが作ったToo darn hot!というジャズの唄があるけれど、このdarnは、damnの「婉曲語」(a euphemism)である。また、hellの婉曲的表現がheckだ。こうしたことはアメリカ英語*1の学習者なら、たいていは知っているはずだ。
 けれども、IHTのWilliam SafireのLanguageというコラムのシリーズ*2で、”Darn! Heck! The new gentility of cussin’ ”と題する2月13日付けのコラムをたまたま読んだのだが、最近の傾向では、簡単に「婉曲的表現」と片づけるわけにはいかないようだ。
http://www.iht.com/articles/2006/02/12/opinion/edsafire.php
 カトリーナのハリケーン災害でFEMAのブラウン元局長に、ブッシュ大統領が、「ブラウン、よくやっているね」(“Brownie, you’re doing a heck of a job.”)と失言したことは、ウォーターゲート事件で、ニクソン元大統領が「私はイカサマ師や悪党ではない」(”I am not a crook.”)と言ったのと同じように、後世でも繰り返し繰り返される可能性がある*3が、あるコラムニストによれば、ジョージ=ブッシュ大統領がdarnかheckをよく使うときは、庶民的で気さくな雰囲気を出そうとするときだという指摘がある。(“The Milwaukee Journal Sentinel columnist Eugene Kane warned viewers of the State of the Union address, “If Bush uses ‘darn’ or ‘heck’ as an adjective to describe a person, place or thing, have a drink. If he uses heck or darn more than once…that means he’s in his folksy mode.” “)
 コラムは続けて、「ここでの、言語的例外を指摘しないわけにはいかない。すなわち、どぎつい語彙が避けられているにもかかわらず、婉曲表現の方が不快で侮辱的と受け取られているからである。ブッシュ大統領の今回の問題の場合、繊細な読者に陳謝するならば、hellの方がおそらく受け入れやすいことだろう」(“We have a language anomaly here:  The euphemism is taken to be offensive, while the harsh word being avoided---in Bush’s case, and with apologies to the sensitive or reverent reader, hell---is presumably more acceptable.”)とある。
 さらに、コラムの後半では、オックスフォード辞書の編集者によれば、婉曲的な語彙への手直しを好む人たちは、年輩者であり、非都会的な、あるいは保守的な傾向にある。だから、こうした婉曲的な語彙を使えば、年輩者であり非都会的という性格を示すことにもなる。だから、若く、都会的で、また保守的でないものは、遠回しでない語彙、より直接的な語彙を用いるのだ。(“ “Keep in mind that the original words,” particularly religious profanity, were once considered extremely strong,” notes Jesse Sheidlower, editor at large of the Oxford English Dictionary. “People who now use the euphemistic alterations are more folksy, likely to be older, more rural or conservative, soothe words suggest an older and less urban worldview. Speakers who are younger, urban and nonconservative would use the uneuphemized words, or even stronger words.” “)
 William Safireは、彼の書き方からすると保守の論客のようだが、語彙水準がむずかしく、読むのは一苦労だ。
 いずれにせよ、婉曲表現ひとつをとってみても、深いものがあると言わねばならない。

*1:イギリス語の学習者なら、bloodyを知っていることだろう。

*2:このコラムは、もともとはニューヨークタイムズに掲載されているようだ。

*3:最近では、すでに携帯電話の着メロになっているようだ。