現場にスタッフがいたにもかかわらず事故が起こったのは何故なのか

 まず、事故を起こしたプールの管理体制だが、市から運営・管理を委託されていた会社が、契約書で禁止されている運営・管理の「丸投げ」をして下請け会社にまかせていたことが判明した。
 テレビや新聞報道によれば、市営プールであるのに市職員が常駐していない。つまり現場に市の職員がいない。職員巡回は二日に一度*1だったそうだが、事故が起こった日は巡回がない日だったようだ。さらに市から管理を委託された委託業者の社員もいなかった。現場には、「丸投げ」された「協力会社」の社員が1人いただけのようだ*2
 監視員の13人は高校生のアルバイト*3で、下請け会社が雇っていたという。
 こうしたスタッフで、現場にスタッフがいたにもかかわらず、事故は起こった。
 朝日新聞によると事故が起こった経緯は、「吸水口のさくのうち1枚が外れ、水中に落ちているのを小学3年の男児が見つけ、近くの監視台の女性監視員に渡したという。監視員はさくが何か分からず、無線で管理塔に連絡。管理塔にいた男性監視員も分からず、事務所にいた社員に電話で連絡した。
 社員が到着して初めて吸水口のさくだと気づいたという。社員が、監視員に人を近づかないように指示して補修道具を取りに戻った後」、小学校2年生の女の子が吸い込まれた。
 吸水口の危険性が十分にわかっていれば、「(遊泳者に対して)水から上がりなさい」という指示とともに「ポンプを切る」という適切な処置ができたはずと悔やんでも悔やみきれないが、スタッフ全体に排水口や吸水口は「悪魔の穴」であるという重要な認識がなかったことが決定的だ。
 つまり流れるプールという現場で最も大切な流れるプールの構造、プールの仕組みがわかっていないということが最大の問題だろう。
 この点で、「県警がプールのアルバイトの監視員らに話を聴いたところ、プールにいた管理会社の社員(36)*4以外は、吸水口の仕組みや、危険性について理解していなかったという」と、朝日新聞は報じているが、もし正しく理解していたとしたら、「水から上がりなさい」という適切な指示を出しているはずだと考えざるをえない。
 ようするに現場を熟知している労働者(管理者)がいないことが決定的に重要ではないかと思うのである。現場には、ポンプや電気を担当する技術者もいなかったということで、無責任体制ではないかという声があがっても不思議ではない。
 次に、施設自体の管理の仕方の問題でいえば、たとえば愛知県のプール条例では、排水口、吸水口の柵は二重構造にすべきとなっているという。
 つまり、これは素人考えでもわかることだが*5、排水口のところだけにではなく、給水口のところにも柵をつければ安全性が向上すると思うのだが、そうした条例は、愛知県くらいしか条例化されていないのだという。
 多発する事故から教訓が生かされず、当然自治体の指導自体も問題にならざるをえない。この点では国の責任も当然出てくるだろう。

*1:ふじみ野市は2005年10月、旧上福岡市と旧大井町が合併して誕生した。市の合併前は、巡回は毎日だったようだ。これからすると、市の合併も事故の遠因のひとつと言えないこともない。

*2:県警によると、事故があった7月31日の事情聴取で、下請け会社の社員が契約会社の社員だと「身分を偽っていたという。1日になって、下請け会社の社員であると認めたという」(朝日新聞)。

*3:8月3日の朝日新聞の夕刊では、「アルバイトの監視員13人のうち11人が高校生」とある。

*4:委託会社ではなく、下請け会社の社員だと思われるが、原文のままとした。

*5:事実、私が一番はじめに排水口と吸水口の図を見たときに、吸水口と排水口全体と、それぞれに、二重に金属格子によって防御すべきと思った。子どもにとっては、排水口は格好の遊び場である。ボルトやナットでしっかりと締め、簡単に開かないようにすることは当然の処置である。