田尻悟郎氏の話を聞く機会があった。
田尻さんは公立の中学校の英語の教師だが、英語教育の素晴らしい実践家であり教師である。
日本の学校は、外国語教育の現場として、指導条件が恵まれているとはけっして言えない。まず、クラスサイズが大きすぎる。公立中学校は、週3時間という時間数。そして教師の多忙化である。
こうした悪条件、とりわけ異常ともいえるクラスサイズの中で、田尻さんは生徒どうしの対話を組織しながら、そして何よりも生徒集団と自らとの対話を通じて、コトバの本質とコトバを用いる必然性をきちんと土台にすえながら、おそらく長年かけてあみ出してきた指導方法が徹底的に磨き抜かれている。英語教育としてはもちろん、何よりも教育として成り立っているところが素晴らしい。
今回、氏の講演をうかがって、授業中に実際に田尻氏が英語を使う場面が多いこと、そして何よりも生徒に英語の力をつけているところに説得力があると感じた。これは、文科省が現場に押しつけている悪条件の中で悪戦苦闘する教師が、ともすれば、日常的な業務に流され、近視眼的な視点しか持ち得ないことが多い中で、氏が教育上大切なことを放さず、長期的な視野に立ち、揺るぎない確信をもって教育活動に当たっているからに他ならない。氏の戦略的思考に脱帽せざるをえない。
英語のスキルでいうと、なんといってもスピード・リズム・パワーが大切なのだが、氏の英語で重要な要素はなんといってもスピードであると講演を聞いて感じた。これを生徒指導の武器にも活用していてストップウォッチを多用し、WPM(words per minute)を用いていることにも現れていると思う。
こうして田尻氏は素晴らしい英語教師なのだが、氏のことを私は9月にあるテレビ番組でたまたま知ったのであって、この番組を観るまでは実は全く知らなかった。
ニューズウィークで世界の100人の教師の中に選ばれたというが、田尻氏が日本が誇れる教師であることに間違いはない。