「見た目よりも深い内容がある」という意味のThere’s more to〜than meets the eye

Rust Never Sleeps

 これは英語に限らないことだが、易しいコトバでも深い内容をあらわすことが、コトバの世界には少なくない。
 コトバには、直接的で狭い意味とそこから派生した間接的で広義の意味とがあり、いわば多重構造になっているからやっかいで、またそこが面白かったりする。
 「時計の針」のことを英語では、「時計の手(hand)」と言う。こんなメタファーは序の口で、例えば、「英語をモノにする」という表現がある。これなど、「英語を支配下におく」というほどの意味で使っているわけだが、「英語をモノにするって、英語を物体化するっていうことなの」といわれれば、ボケとツッコミになってしまう。「君が読めない、君の心が読めない」といえば、「私は本じゃないわ」と言われてしまうかもしれないし、将棋や囲碁で「次の一手が見えん」と日本語が母語ではない外国人に言われたら、「視力が悪かったの」とは思わず、日本人はドキッとしてしまうだろう。
 逆も真なりで、日本人が外国語を話すときは、ethnocentrism(自民族中心主義)など、むずかしい語彙を知っているということを披露することで相手を感心させることもテクニックだし、同時に、やさしいコトバを使って、深い意味を表現することも重要なテクニックである。
 先の話に戻ると、ひとつひとつの語彙が簡単でも、全体として意味がわからないフレーズというものが少なくない。
 There’s more to〜 than meets the eye.も、そのひとつだ。
 1979年のNeil Young & Crazy HorseのRust Never Sleepsは数あるNeil Youngのアルバムの中でも傑作と言われており、私もそう思うが、一曲目はMy My, Hey Heyのアコースティックヴァージョン、最後の曲は、My My, Hey Heyのエレクトリックヴァージョンとなっている。
 It’s better to burn out than to fade away(「消え去るよりも、燃え尽きるほうがいい」)という一文で有名なMy My, Hey Heyという曲の中には、面白いフレーズが結構ある。This is the story of a Johnny Rottenと、アコースティックヴァージョンでは、Johnny Rottenに冠詞のaがついているのに、エレクトリックヴァージョンでは、そのaが故意に抜かされていたり、Rock and roll can never die(「ロックンロールが死ぬことはけっしてありえない」)はわかるとして、Rock and roll is here to stay(「ロックンロールはなくならない」)は初級者にはむずかしいかもしれない。
 さてMy My, Hey Heyの中に、There’s more to the picture than meets the eyeという一文がある。これは「見た目以上の深いものがある」の決まり文句である。
 最新日米口語辞典 (1982年)には、「隅に置けない」という訳語が当てられていたが、これは「もっぱら人について「侮りがたい」「油断ならない」の意味で使われる言葉だが、この英語は「裏がある」や「(ちょっと見ただけではわからない)深い内容がある」の意で人以外についても使われる」と解説されていた。