Howard Zinn・Anthony Arnoveの"Voices of a People's History of the United States"

Voices of a People’s History of the

 本書を初めて手に取って目次をながめてみたが、本書は1980年に出されたHoward Zinnの"A People's History of the United States"の姉妹編的資料集ともいうべきもので、この"Voices of a People's History of the United States"は2004年に出版された。本書は、"The People Speak"の種本にもなっている。 
 コロンブスやラスカサスから始まり、当然のことながら、アメリカ独立宣言では、Thomas Paineの"Common Sense"はもちろんのこと、「独立宣言」でもトーマス・ジェファーソンの前にさまざまなローカルな「独立宣言」が出され、その一例として、ニューヨークの職工のヴァージョンが収録されている。
  W.E.B. Du Bois、Noam Chomskyらの高名な学者たち。Muhammad Aliベトナム戦争の兵役拒否はもちろんのこと、Martin Luther King Jr., Malcom X、Sacco and Vanzettiなども収録されている。
Helen Keler、John Reed、John Steinbeckの"The Grape of Wrath"、詩人Langston Hughesの作品、Allen Ginsberg、Alice Walker*1、Dalton Trumboの"Johnny Got His Gun"(「ジョニーは戦場に行った」)等々。
 興味深いのは、歴史にとりあげられることの少なかった普通の人びと、女性、労働者、非白人の声を読むことができることだ。"Voices of a People's History of the United States"という題名にした、それが眼目であろう。おまけに、"The People Speak"では、朗読された声を聴くこともできる。
音楽では、Woody Guthrieの"This Land is Your Land"はもちろん, Billie Holidayの "Strange Fruit", Bob Dylanの"Masters of War", Bruce Springsteenの"The Ghost of Tom Joad"、Patti Smithの"People Have the Power"などの歌詞も収録されている。黒人女性ジャズシンガーのAbbey Lincoln*2のエッセイなども、Howard Zinnが編集した本書のようなレファランスブックがなければ、日本人にはなかなか読むことのできないものだろう。
 Mark Twainとして知られるSamuel Clemens。Howard Zinnは、"A People's History of the United States"で、1900年までに彼は世界的な作家となったが、"Mark Twain was neither an anarchist nor a radical."(「マーク・トウェイン無政府主義者でもラディカルでもなかった」)と評価している。そのマーク・トウェイン(サミュエル・クレメンス)が、フィリピン侵略をどのように考えていたのか。モロ虐殺(Moro Massacre)に対してどのように考えていたのか、Samuel Clemens "Comments on the Moro Massacre"(March 12, 1906)の資料も収録されている。マーク・トウェインは、明確な反帝国主義者であった。
 Woody Guthrieの"This Land is Your Land"にしても、"But in many cases, the song's fourth and sixth stanzas, which speak to Guthrie's sense of social justice, have been suppressed."(「しかし、多くの場合、この歌の4番目と6番目のスタンザ(「連」)、それはガスリーの社会正義の意識を語るものなのだが、それが多くの場合、削除されてきた」)というハワード・ジンの貴重な解説に触れることができる。
 訳本が高価であるのは仕方のないことにしても、ペーパーバック"Voices of a People's History of the United States"なら大変安価である。訳本はすべての人に、ペーパーバック版は、多くの英語教師に手に取ってもらいたい労作である。
 アメリカ合州国の歴史やサブカルチャーに興味のある方なら、Index(索引)自体を眺めるだけでも、勉強になるはずだ。
 折にふれて精読したくなる魅力的な本である。

*1:クリントン政権キューバ通商禁止に対する1966年の公開批判書簡が収録されている。

*2:リアルタイムではなかったが、植草甚一さんらのエッセイを読みながら、個人的にジャズを聴きだしてからは、ジャズ音楽で人種問題に対する考えを深めていたことがあった。そうした中でMax Roachとのアルバム"We insist!"を聞いたこともある。