「法制局協議、検証できず 集団的自衛権容認、内部記録なし 「議論自体不十分」指摘も」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2015年11月24日05時00分)より。

 内閣法制局が、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈変更までの内部協議の記録を残していなかった。一貫して「行使できない」としてきた法制局が、どのように過去の解釈を捉え直し、解釈変更を認めたのか客観的に検証できない。一方、法制局内からは、解釈変更について内部での議論自体が不十分だったとの指摘も出ている。


 内閣法制局はあくまで法的な面から内閣を補佐し、首相に意見を述べる機関だが、これまで事実上、政府の憲法解釈を一手に担ってきた。特に憲法9条との関係から自衛隊の海外派遣にたがをはめるなど、「法の番人」とも呼ばれている。

 現職の複数の法制局参事官によると、憲法解釈を担う第一部は、第二、三、四部のように具体的な法案をめぐり各省庁とやりとりするわけではないため、協議を記録に残さないことが多いという。法制局長官経験者の一人も「憲法問題は高度に政治的なため、なるべく記録しないという雰囲気があった」と語る。

 しかし、今回の憲法解釈の変更をめぐっては、横畠裕介長官自らが国会答弁で「法制局内で議論をしてきた」と明言している。それなのに、記録がないことによって、憲法解釈の当事者である法制局の協議過程で歴史的な解釈変更について異論があったのか、全員一致だったのか、といった基本的なことすらわからない。また今後、法制局が憲法解釈を変更する意思決定をした場合、同じように協議過程の記録を残さない事態が繰り返されかねない。

 公文書管理法に詳しい独協大法科大学院の右崎正博教授は「法では『軽微なもの』は保存しなくていいとなっているが、今回の憲法解釈変更は歴史的に重大なものであり、ましてや法制局内部で議論をしたと認めながら、記録を残さないという判断は法の精神からみても、とうてい許されない」と指摘する。

 一方で、法制局内部からは、今回の憲法解釈の変更をめぐり、そもそも記録に残すほどの議論があったのか、という指摘がある。

 昨年10月、ある法制局幹部は周辺に「横畠さんがこの会合に出ていたなら、教えて欲しかった。知らなかった」と語った。集団的自衛権の行使を認める閣議決定案を、自民党高村正彦副総裁や公明党北側一雄副代表、横畠氏らによる秘密会合で練っていたと報じた朝日新聞の記事を読んでのことだ。法制局長官経験者も「内部で議論を積み上げた形跡はない。横畠長官1人で判断したようだ」と話す。

 横畠長官は国会答弁で、憲法解釈の変更について法制局内に「反対する意見はありません」と述べている。だが、法制局内部で徹底した議論がなかったことは、閣議決定後、安全保障関連法案を作る過程からもうかがえる。昨年末、法案作成のため、外務省や防衛省の担当官僚が法制局を訪れたが、応対した法制局参事官は「この条文が合憲と言えるのか、横畠長官でないと分からない」と繰り返したという。防衛省官僚は「かつて参事官は『合憲だ』『違憲だ』と自信満々だったが、法制局の人たちから当事者性がなくなっていた」と話す。

 ある法制局参事官は「『解釈変更の経緯を知らないので私では判断できない』と答えたことがある」と認める。

 (蔵前勝久)