「石牟礼道子さん死去 水俣病を描いた小説「苦海浄土」」

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 以下、朝日新聞デジタル版(2018年2月10日03時51分)から。

 水俣病患者の苦しみや祈りを共感をこめて描いた小説「苦海浄土」で知られる作家の石牟礼道子(いしむれ・みちこ)さんが10日午前3時14分、パーキンソン病による急性増悪のため熊本市介護施設で死去した。90歳だった。葬儀は近親者のみで執り行う。喪主は長男道生(みちお)さん。

 熊本県・天草に生まれ、生後まもなく対岸の同県水俣町(現水俣市)に移住した。短歌で才能を認められ、1958年、詩人谷川雁(がん)氏らと同人誌「サークル村」に参加。南九州の庶民の生活史を主題にした作品を同誌などに発表した。68年には、「水俣病対策市民会議」の設立に参加。原因企業チッソに対する患者らの闘争を支援した。

 水俣病患者の心の声に耳をすませてつづった69年の「苦海浄土 わが水俣病」は高い評価を受け、第1回大宅壮一ノンフィクション賞に選ばれたが、「いまなお苦しんでいる患者のことを考えるともらう気になれない」と辞退した。以降も「苦海浄土」の第3部「天の魚」や「椿(つばき)の海の記」「流民の都」などの作品で、患者の精神的な支えになりながら、近代合理主義では説明しきれない庶民の内面世界に光をあてた。

 2002年には、人間の魂と自然の救済と復活を祈って執筆した新作能「不知火(しらぬい)」が東京で上演され、翌年以降、熊本市水俣市でも披露された。

 晩年はパーキンソン病と闘いながら、50年来の親交がある編集者で評論家の渡辺京二さんらに支えられ、執筆を続けた。中断したままだった「苦海浄土」第2部の「神々の村」を2004年に完成させ、3部作が完結。11年には作家池澤夏樹さん責任編集の「世界文学全集」に日本人作家の長編として唯一収録された。

 73年、水俣病関係の一連の著作で「アジアのノーベル賞」として知られるフィリピンの国際賞「マグサイサイ賞」、93年には不知火(しらぬい)の海辺に生きた3世代の女たちを描いた「十六夜(いざよい)橋」で紫式部文学賞。環境破壊による生命系の危機を訴えた創作活動に対し、01年度の朝日賞を受賞。03年に詩集「はにかみの国」で芸術選奨文部科学大臣賞を受けた。全17巻の全集(藤原書店)は13年までに刊行(14年に別巻の自伝)。他の著作に「西南役伝説」「アニマの鳥」「陽のかなしみ」「言魂(ことだま)」(故・多田富雄氏との共著)など多数。

 15年1月から本紙西部本社版で、17年4月から全国版でエッセー「魂の秘境から」を連載中だった。

作家・池澤夏樹さんの話

 近代化というものに対して、あらゆる文学的な手法を駆使して異議を申し立てた作家だった。非人間的な現代社会に、あたたかく人間的なものを注いでくれたあの文章を、これからはもう読むことができない。本当はもっと早くから、世界的に評価されるべき作家だった。